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文章は残り僅かだ。出入り口の方へ目を向けると、ハンカチを目に当てたままの母親と、さっきと変わらず俺を真っ直ぐに見つめる親父がいた。
「親父。俺はきっとこの先も親父の背中を追い続けると思う。だから…ずっと先で待っててよ。時々振り向いて、俺が立ち止まってるようなら…手を差し伸べて欲しい」
親父は柔らかな表情で頷き「分かった」と言うように胸元まで片手を上げた。俺も頷き、最後の一文を読んだ。
「親父。……親父、今までずっと、ありがとうございました…」
手紙を読み終えた俺達は、花束と共に両親の元へと歩を進めた。
近づくにつれ、涙が頬を伝う。絶対泣かないって
思ってたのに……親父が笑って両手を広げて待っている。その姿を見たら、俺の心は一気に子どもに戻ったようだった。
――親父、もう会えなくなるのかよ。ふざけんなよ……親孝行はこれからだったのに。
俺と親父は重なり、互いの背中を軽く叩いた。たくましかったはずの親父の体は、今は細く弱々しい。悔しさと悲しさの涙がまた溢れ出す。
「手紙、ありがとうな。ずっと見守っているからな」
親父のその言葉が、今も頭の中でふと聞こえてくる。
親父は式から間もなくして、天国へと旅立った。
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