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春は憂鬱
澄んだ青空、薄ピンク色の桜。
景色はどれも美しく輝くのに、私の心は薄曇り。
新しい世界に踏み出すのが怖い。
不器用で世間知らずな自分を日々痛感している。
次、失敗したら…あの人の冷たい目線が心に刺さる。
投げかけられる重く鋭い言葉に押し潰されそうになる。
夜、鏡を見て無理やり笑顔を作るけど、心から笑えていない自分が悲しくて、自然と涙が頬を伝った。
「頑張れ…頑張れ、私」
自分だけは味方。目の前に映る私を一生懸命励ました。それでも、翌朝には全身が重い。
具合が悪い、そんな気もする。だけど行かなくちゃ。
嫌でも時間は流れる。鉛のような体を動かし、いつもの電車に乗った。
「あ…」
乗り込んだ先に、同じ職場の先輩がいた。
気まずくなりながらも小さめの声で挨拶をする。
「少しは慣れてきた? 毎日覚える事いっぱいで疲れるでしょ」
担当が違うから、普段はあまり関わりがない歳の近い先輩。こんな風に話すのも初めてかもしれない。
私はやや首を傾げながら、正直に「はい」と答えた。
先輩はそれに笑った。
「仕事覚えてくると、少しは楽に感じるから。もう一踏ん張り! あとは…」
電車を降り、職場までの短い時間で、先輩は上司や私の係の人達の話をしてくれた。
「これについては田中さんが一番詳しい」
「佐藤さんは冷たそうに見えるけど、めちゃめちゃ猫好き」
「係長はね、文句言いたいだけだから気にしないで」
有り難いアドバイスから、周囲の人のプチ情報まで教えてくれた。職場に着くと、私の見る世界は少しだけ明るくなった。
隣の席の田中さんは、聞けばちゃんと時間を作って教えてくれる。
話しかけづらかった佐藤さんは、同じ猫好きとして勝手に親近感を覚え始めた。
怖かった上司の心無い言葉も、少しは受け流せる。
気がつけば、その日の私はちゃんと笑っていた。
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