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「お疲れ様でした〜。お先です」
先に帰っていく先輩を、私は仕事を中断して追いかけた。先輩は振り返り、キョトンとして私を見つめる。
「先輩、今日はアドバイスとか色々…ありがとうございました。私…なんとか頑張れそうです」
先輩はパッと笑顔になって、数回頷いた。
「うん、良かった。私も入った当初そうだったから…大丈夫。何か困ったら相談して。あ、そうだ、連絡先交換しよう」
どこか楽しそうな先輩と連絡先を交換した。
分かれた後、先輩から可愛いスタンプが送られてきた。そして数秒後に届いたメッセージに、私の心はじんわりと温かくなった。
「仕事はつらい事も多いけど、分からない事、不安な事は溜め込まないでね。今度は一緒に飲みに行こう!」
私もすぐさま返事とスタンプを送った。
きっと先輩だって、つらい思いを抱える事はあるだろうと思うと、愚痴を聞けるくらいの支えになりたいと思った。私だって何か役に立てるかもしれない。
席へ戻ると、係長が帰り支度をしながらもチクチクと嫌味を溢していく。
だけど今の私は毒されない。
田中さんと目が合うと「やれやれ、困ったね」という表情を向けられて、思わず笑った。
デスクの上には佐藤さんから返ってきた書類に「よろしくです」と猫の付箋にメッセージが書かれている。…可愛い。
その日の帰り、軽くなった心と微かに湧き出す明日への意欲を胸に夜空を見上げた。雲もなく、星がキラキラと瞬いているのが分かる。
春は憂鬱。でも、いつまでも心は曇り空じゃないという事を、私は今日知ったんだ――。
〜終わり〜
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