親父への手紙

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「親父、今日は最後まで俺達を見守ってくれてありがとう。身体が辛くないか心配だったけど、今日沢山の人の協力を得て、親父がここにいられるという事に、心から感謝しています」 俺は会場の奥に座る医師と看護師の方に向けて一礼した。車椅子に座った親父も静かに微笑み、会釈した。 「親父の病気が昨年分かって、先月には余命宣告を受けて…結婚式も延期しようと思ったけど、晴れ姿を見たいって親父が言ってくれて…今日、こうして無事に挙げる事が出来ました。親父の希望をひとつ叶えてあげられたのかなって思っています」 オルゴール調のBGMが静かに流れる。 正直、結婚式の曲なんて何でも良かったけど、ここで流す曲として選んだのは、親父も俺も唯一共通で好きだった歌手の曲にした。 「いつからか親父との距離が出来てしまって、今思えば大した理由もないのに何年も口をきかず避けたりして……今更だけど、もっと話しておくべきだったって思う。けど、話さなくても親父は俺を分かってくれてる気がしてた。何ていうか…ごめん。そして、ありがとう」 間を置くと、ようやく曲の一部が耳に入る。そして、誰かが鼻を啜る音。俺はひたすら手元の文字を追った。 「仕事がどんなに大変でも、身体がボロボロになった今でも、親父は弱音も吐かず、むしろ俺達にエールを送り続けてくれてるよな。何でそんなに強いんだろうって不思議だよ。羨ましいよ。……俺も、そんな父親になりたい」
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