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羊と出逢ったのは、小夜がたまごボーロを持ち歩くようになって3日目のことだった。
小夜は幼稚園から帰ってくると、真昼の習い事のお迎えの時間まで、そのまま家の前の公園で遊ぶ。
もともとお喋り好きの母は、同じく公園で子どもを遊ばせるママたちとの会話に花を咲かせている。今日は何して遊ぼうか。
小夜はトンネル型のドーム型遊具へ駆けていく。
「小夜ちゃんも入れてっ」
そこにはすでに4、5人ほどの子どもがいて、小夜よりも大きい。
ドームの上に登っていた子が「いいよー」と返事をくれる。小夜はその瞬間、「きゃー」と無意味な喜びの奇声を上げながら、上へと登る。
「何で遊んでるの?」
「俺たちがナイトでー、ナイトって知ってる? あれね、なんか王様とかの近くにいて、剣持ってる強いやつ。そんで、下にいるやつがワニ。30秒数えると上に上がってくるから、食べられる前に逃げるか倒す。お前、お姫様ね。お姫様が死んだら終わりだから、ナイトのそばにいて」
早口で説明してくれる男の子に、小夜は勢いよく「わかった」と頷いた。
全然わかってないのに小夜にはすぐに「わかった」と言う癖があった。
とりあえず逃げればいいということだけ理解した小夜は、なんか逃げていた。
飽きるまでの同じ遊びの繰り返し。
そのうち、永遠のお姫様役が飽きて解散。小夜はすぐに新しい遊び場を探す。
「?」
そして、公園の周りを囲むようにして植えられた木の下に、ひとりしゃがみ込んでいる子どもを見つけた。
もちろん小夜はそこへ走っていった。
公園の隅っこで、葉っぱや枝が落ちているだけの地面をじっと見つめる男の子のそばに着くと、小夜は当たり前のように、彼の隣に一緒になってしゃがみ込んだ。
「なにしてるの?」
隣の男の子は、小夜をちらりとも見ない。
ただじっと、同じ場所を見つめたまま、ぼそりとつまらなさそうに言う。
「生贄」
「イケニエってなあに?」
初めて聞く言葉だった。
小夜の言葉が届いているのかいないのか、男の子の横顔では判別できない。
彼の真っ白な肌は小夜と同じく頬がまあるくて、睫毛はくるんと上向きでと長い。
黒くて艶々な小夜の髪とは違い、彼の髪は茶色くて、木漏れ日で触れた光できらきら輝いていた。
きれいな男の子は、いきなり靴の上を登ってきた小さな蟻を捕まえたかと思えば、腕を伸ばして、ぽと、と地面に落とした。
だけど、その地面は他のところとは少し違くて、摺鉢状の穴が空いていた。
必死に這いあがろうともがく蟻は、足掻くたびにさらりとした砂粒と共に中心部へと落下していく。
小夜の心臓がばくばくと胸騒ぎを起こす。
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