ネクタイで馬乗りな服装検査

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「アリさん大丈夫なの?」 小夜の心配げな声に、隣でじっともがく蟻を傍観している少年は「生贄だからしょうがない」とだけ呟く。 きょろきょろと視線を彷徨わせて焦る小夜とは違い、彼は諦観した眼で、呼吸すらも聞き取れないほど静かだ。 蟻が懸命に上へ登ろうとする最中で、中心部から、砂が舞う。何かいる。だが姿は見えない。 初めて見る光景に、小夜もとうとう目が離せなくなった。 蟻はとうとう摺鉢状の穴の最下層に落ちる。 すると、身を捩ることしかできなくなり、まるで魔法のように、じわりじわりと砂の中へと引き摺り込まれてしまった。 「いなくなっちゃったよ」 思わず泣きそうな声で、隣の男の子に言う。 彼は慣れた様子で、またもう一匹、蟻を同じ穴へと落とした。 「地獄に落ちたの」 「地獄ってなに?」 「悪いやつが落ちるところ」 「アリさん悪いことしたの?」 淡々と答えていた男の子が、初めて気まずそうに口を噤んだ。 だけどすぐに眉間に皺を寄せて、面白くなさそうな顔で言い返してくる。 「別にしてないけど。」 「悪いことしてないのに地獄にしたらだめじゃないの?」 質問攻めをしてくる小夜に、とうとう彼は痺れを切らした。 横顔がぎゅいと小夜へと向けられる。 (わ、わあ……!) 小夜は思わず頬に両手を当てた。感動したり歓喜したりすると母の真似をする癖があった。 真正面で間近に見る男の子の顔は、小夜が今まで出会ったどの人間よりもきれいだった。 先ほどまで蟻が地獄に落ちていく様を見ていた時の暗くなる気持ちは、彼の美しさで一掃され晴れ渡る。 だが、小夜を睨みつけた彼は、今度は蟻の代わりに小夜を地獄に落とすことにしたらしかった。 「しつこいな。あっち行けよ」 意地悪な言葉を直接ぶつけられたのは初めてだ。小夜は悲しみや怒りよりも、驚きでいっぱいになった。
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