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「えー? 朝からどうしたの。反抗期?」
小夜と羊は自然と隣を並んで歩く。
あの頃は同じくらいだった身長も、今では10センチほど羊の方が高い(小夜の言い分なので、本来はさらに身長差がある)。
長い足でたらたらと歩くさまは、小夜の小さな歩幅に合わせているようで小夜は負けた気分を毎日味わっている。
可愛らしい顔は、美しさを保ったまま成長と共に精悍さが増している。どこを取っても敗けている。戦う気すら起きない。
そのくせ、いつまでも一緒にいるのだ。
「お前と初めて会った時の夢見た」
夢見が悪かったせいで、まだ覚醒しきれていない小夜はうんざりした声で言う。
小夜の言葉に、隣の幼馴染も「あー」なんて懐かしむような声をあげて、それから、なぜか照れたように、はにかんでみせた。
「俺も覚えてるよ。懐かしいね」
飴玉を舌の上で転がしたような嬉しさの滲んだ声に、小夜は白目を剥きそうになる。
(はあ? なに嬉しそうにしてんだ、こいつ。)
純粋無垢なあの頃の小夜に悪を植え込んだくせに。思わず舌打ちをした小夜に、羊はまた笑う。
今じゃあの頃とはお互いに正反対とも言える性格だ。小夜はちらりと隣の男を見上げる。
口元に笑みを携えて、鼻歌でも歌い出しそうな顔をしている。
「朝から楽しそうですね」
「まあねん」
「今日、全校集会のあと服装検査だぞ」
「えっ、ねえ小夜、ネクタイ、」
「貸さない」
「小夜ー」
✌︎
「なんでああいう奴らって服装検査だって言ってんのに引っかかるようなことしてんのか謎」
隣の安田の言葉に、体育座りをしながら小夜も小さく頷いた。
「同感」
校長の長い話の後は、服装検査が速やかに行われる。
クラスごとに背の順で男女に分かれて成した列に、教師が目を光らせて生徒たちの服装の乱れを指摘していく。
背の順で前から2番目の小夜は、教師がほぼ立ち止まることなく検査が終了する。
学校での小夜の立ち位置は良くも悪くも目にも止まらぬ生徒である。
小夜の次に背が低い安田も、小夜と同様、空気のように服装検査を終える。
終わった順に座って待つのだが、大抵、後ろに行けば行くほど時間がかかる。
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