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──嫌だけど。
はっきりとした拒絶の声に、相園 小夜は思わず足を止め、息を詰めた。
小夜はただ、帰りのSHRをサボって食堂前の自販機で駄弁る幼馴染を、探しに来ただけなのに。
「お前即答はひでぇぞ。一緒に帰ってんならついでに誘ってやりゃいーじゃん」
「ひどい? 俺が普通に無理ってだけなんだけど」
廊下の角に息を殺して立ち淀む幼馴染がいるとも知らず、幼馴染の遠慮もクソもない物言いに、小夜は段々腹が立ってくる。
小夜の手には、学校指定のスクールバッグ。幼馴染のものだ。戻るのが面倒だろう、と小夜が気を回して持ってきたが、今すぐにでも燃やしてやりたい。
空腹時の苛立ちに似た感情を抱きながらも、小夜の足は一向にその先へ進もうとはしない。
むしろ、ワックスの行き届いた廊下にぺたりと張り付いてしまっている。
「場所どーする? いつもの駅前のビル3階のとこ?」
「ゲーセン側のが良くね」
「よっちんそっちに最近入ったバイトの子がタイプなんだもんねー?」
「うっせ」
一日中、何時何時も声がでかく、かつ、見た目も奇抜な集団。
「あマジ? ショートボブの?」
「イエス! いかにもよっちんの好きそうな女子っしょ?」
素行不良のくせに何故か教師陣からは呆れられつつも、可愛がられる存在。
「でもその子、芥川にインスタやってますかって声かけてたよ」
「芥川てめー」
教室の空気を自由自在に操って、好き勝手にできるグループ。学校帰りに当たり前にカラオケに行く奴等。
どこにいても良い意味でも悪い意味でも人目を引き、注目を浴びる男女の群れ。
笑い声と共にいくつもの足音が小夜の方へやってくる。
ばくばくと心臓が早鐘を打ち、幼馴染のバッグを抱く力が無意識にこもる。
もとから何も入っていないバッグは中から空気がわずかに抜け出るだけだった。
「小夜から返事ない。」
無駄に盛り上がりを見せる会話を総スルーした幼馴染の一言に、小夜は慌ててスラックスのポケットからスマホを取り出した。
〈先帰ってていいよん🥴〉
ふざけた絵文字付きのラインに、小夜が「死ね」と呟く。
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