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最寄駅から徒歩15分が小夜の住む一軒家だ。
そして、小夜の家から徒歩10秒が幼馴染である芥川羊の家だった。
シン、と静まり返った羊の家を通り過ぎ、子どもたちの笑い声に釣られて反対側へ視線を向ける。
小夜と羊の家の向かいには、公園があった。
鉄棒とジャングルジムはいつの間にか撤去されていたが、滑り台やブランコ、スプリング遊具、トンネル付きのドーム型遊具は、小夜が子どもの頃からずっとある。
年も男女も関係なく、砂場で遊ぶ子どもたちを横目に小夜は家へと入った。
〈これって小夜が好きなゲームのやつだっけ?🫨〉
既読無視を続けても懲りもせず羊からラインがきたのは、部屋着になって、ベッドに寝転びながらスマホのゲームを起動させている時だった。
送られてきた写真は、まさに小夜が今からやろうとしているゲームのキャラの一人だ。
UFOキャッチャーに陳列されたキャラはデザインも良く、すごく可愛い。普通に欲しいと思った。
「……ゲーセンも行ってるのかよ」
小夜はやはり既読無視した。それきり、羊からの追加のラインはなかった。それがまた、面白くなかった。
母が帰宅し、残業のあった父も帰宅し、大学生である姉の真昼も帰宅し、夕飯を取る。
順番で風呂に入り、両親が先に寝室へ赴き、姉がリビングのテレビを占領する。
どうやら最近推しているアイドルが音楽番組に出演するらしい。いちごのアイスを齧りながら、歌って踊る彼らを傍観する。
面食い一家である相園家は、もちろん羊に甘い。
「羊くんのことどっかの事務所に応募しちゃおうかなー。ほら、身内に勝手に応募されたあるある」
「羊は姉ちゃんの身内でも何でもないが」
「しょうがないでしょ。ガチの身内にはチビでオタクな弟しかいないんだから。ほんとさあ、幼馴染でもない限り、あんたと羊くんとか世界線別だかんね、普通に。わかってんの? てかいい加減前髪切りなよ鬱陶しい。あっ、姉ちゃんが切ってあげようか。やったげるよ」
1でも言い返すと100倍にして返ってくる。よく自分の前髪を切っては悲鳴をあげる姉は、とにかく小夜を練習台にしたがる。
というのも、相手が弟であれば、失敗しようが何だろうが姉という権威で無罪放免となるからだ。
自分の見た目に疎く、お洒落とはあまりにも無縁すぎる小夜が、お洒落最先端の姉からすると我慢ならないらしい。
「小夜あんたいっつも千円カットで切ったんだか切ってないんだかはっきりしない髪型でさあ。母さんに似て目がおっきくて二重なんだから別に隠すことないじゃん。あたしなんて朝から何時間かけて顔面作ってヘアスタイル決めて腹六分で我慢して毎日湯船浸かってマッサージして」
とにかく喋りだすと止まらない姉から逃げるように、小夜はこそこそと階段を駆け上がった。
自室に戻り、再びベッドの上へダイブする。身内の言葉というのは嘘偽りなく率直だ。
『ほんとさあ、幼馴染でもない限り、あんたと羊くんとか世界線別だかんね、普通に。わかってんの?』
ラインを開く。友だちの少なさ。トーク画面上位が家族と公式アカウント。そこに混じる幼馴染。トーク画面を開く。
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