ニャーでロッキーなぬいぐるみ

6/9
152人が本棚に入れています
本棚に追加
/90ページ
そんな小夜の内心など知らず、羊は「でもちゃんとお礼したから大丈夫」なんて何もだいじょばないことを言っている。 「一緒にプリクラ撮ってほしいって言われたから、ほら」 羊がごそごそと何かを漁る。 ベッドからでは見えないが、おそらくスラックスのポケットの中にでも入っているのだろう。 ようやく「あったあった」と取り出して見せた横長のそれは、すでによろよろで折り目がついていた。 そしてそこに映る全てが宇宙人。 「きも。」 放課後から今に至るまでの諸々の感情を込めて言えば、羊は「ねー」なんてノーダメージで一緒になって笑っている。 その笑った左の笑窪のもっと横にスライドしたところ、左の耳朶に輝くベビーブルーのピアス。 中学生の羊がそこに穴を開けた経緯を、幼馴染の小夜は知らない。 「その人とインスタ交換したから、欲しいものあったら言って。取ってもらうから」 頬杖をついた羊は満足げに笑って、小夜を見ている。 自分の恵まれた容姿で釣った魚に取らせた餌で、小夜におこぼれを与えてくる。 そんなふうな考え方しかできない卑屈な自分が嫌になる。 (昔のおれたちはもっとこう、お互いに純粋で健全で対等な関係だった……は、ず……あれ、いや、待てよ、) 小夜を見つめる琥珀色の瞳を頼りに、昔の記憶を辿ってゆく。 (初対面の羊に初めて言われた言葉は『しつこいな。あっち行けよ』だった。鮮烈な記憶だ。だっておれはこの時初めてこの世の悪と対峙したのだのだから。 その後も『小夜のものは俺のもの』とクレヨンを奪われたり、順番を抜かされたり、誕生日には大好物のいちごを奪われたり、 おれが自分を「ぼく」から「おれ」にアップデートしただけで家族に密告された家族会議にされたり……あれ、こいつって昔から最低なのでは……?) 柔和な笑みで小夜を眺める羊がやけに腹立たしくなって、思わずその顔面目掛けてぐーを放った。 「お前ってクソ野郎だ」 だが、小夜のぐーは相手のぱーに包こまれて敢えなく暴力は無謀に終わる。 いきなり殴ろうとした小夜を咎めることもなく、羊は「えー?」なんて眉をわずかに下げながら笑った。 「小夜、今さら過ぎない?」 「クソ野郎の自覚あんのかお前」 「あるよん」 小夜のぐーを包み込んだまま、羊がその手でピースを作る。
/90ページ

最初のコメントを投稿しよう!