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そんな小夜の内心など知らず、羊は「でもちゃんとお礼したから大丈夫」なんて何もだいじょばないことを言っている。
「一緒にプリクラ撮ってほしいって言われたから、ほら」
羊がごそごそと何かを漁る。
ベッドからでは見えないが、おそらくスラックスのポケットの中にでも入っているのだろう。
ようやく「あったあった」と取り出して見せた横長のそれは、すでによろよろで折り目がついていた。
そしてそこに映る全てが宇宙人。
「きも。」
放課後から今に至るまでの諸々の感情を込めて言えば、羊は「ねー」なんてノーダメージで一緒になって笑っている。
その笑った左の笑窪のもっと横にスライドしたところ、左の耳朶に輝くベビーブルーのピアス。
中学生の羊がそこに穴を開けた経緯を、幼馴染の小夜は知らない。
「その人とインスタ交換したから、欲しいものあったら言って。取ってもらうから」
頬杖をついた羊は満足げに笑って、小夜を見ている。
自分の恵まれた容姿で釣った魚に取らせた餌で、小夜におこぼれを与えてくる。
そんなふうな考え方しかできない卑屈な自分が嫌になる。
(昔のおれたちはもっとこう、お互いに純粋で健全で対等な関係だった……は、ず……あれ、いや、待てよ、)
小夜を見つめる琥珀色の瞳を頼りに、昔の記憶を辿ってゆく。
(初対面の羊に初めて言われた言葉は『しつこいな。あっち行けよ』だった。鮮烈な記憶だ。だっておれはこの時初めてこの世の悪と対峙したのだのだから。
その後も『小夜のものは俺のもの』とクレヨンを奪われたり、順番を抜かされたり、誕生日には大好物のいちごを奪われたり、
おれが自分を「ぼく」から「おれ」にアップデートしただけで家族に密告された家族会議にされたり……あれ、こいつって昔から最低なのでは……?)
柔和な笑みで小夜を眺める羊がやけに腹立たしくなって、思わずその顔面目掛けてぐーを放った。
「お前ってクソ野郎だ」
だが、小夜のぐーは相手のぱーに包こまれて敢えなく暴力は無謀に終わる。
いきなり殴ろうとした小夜を咎めることもなく、羊は「えー?」なんて眉をわずかに下げながら笑った。
「小夜、今さら過ぎない?」
「クソ野郎の自覚あんのかお前」
「あるよん」
小夜のぐーを包み込んだまま、羊がその手でピースを作る。
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