3人が本棚に入れています
本棚に追加
つれてきた、つれてきた。
これは、私が大学生だった時の話。
高校時代の後輩である水葉がうちの大学に合格したと聞いたのは、今年の春のこと。
彼女と私は高校時代、同じオカルト研究会に所属していた。つまり、一種のオカルトマニアというか、ホラー好きの仲間だったというわけである。特に彼女は中学時代から一人で全国各地のホラースポット巡りをしてきたくらい、アクティブな少女だった。先輩の私も知らないような面白いイワクや怪談を知っていて、明るくて話も上手いのでみんなに好かれていたものである。
もちろん、そんな彼女が同じ大学に来てくれると知って、大喜びしたのは言うまでもない。
ギリギリまで願書を出す先を迷っていたことも知っているし、私立の本命がいくつかあったことも知っている。最終的に複数合格した学校のうち、うちに来てくれたのはまさに僥倖だったと言えよう。
問題は。
「おめでとう水葉ちゃん、で、それはいいんだけどさ。あんたの実家からじゃ、ウチに通うのきつくないか?」
『それなんですよう』
電話の向こう、彼女は困ったように言った。
『県としては隣なのに、なーんでこんなに遠いんでしょうね。埼玉県って、北西のエリアの存在を時々忘れてません?群馬か何かだと思ってません?』
「時々じゃなくて、常に忘れてると思う。県南から東京に出る方が遥かに近いっていうの、ワイドショーとかでもふつーにネタにされるしね……」
『北から南には行けるのに、東西に行けないとか、北西部は交通機関に忘れられてるとかもう散々言われてますもんね。はあ』
そう、自分達は元々埼玉県北西部の出身だった。地元ののんびりとした高校に通っていた学生だったわけである。
もちろん、あの一帯にだっていいところはたくさんある。名産品もある。が、それはそれとして、東京の大学に通うにはあまりに不便であるわけで。ましてや、大学に通学するのにバイク通勤は不可であるわけで。
『というわけで、急いで引っ越しの準備しないといけないんです。今日電話したのもそれでして』
アパートはもう決まってるんですけど、と水葉。
『だからその、槙野先輩。荷物の整理とか、いろいろ手伝っていただけると嬉しいです。わたし、整理整頓とか壊滅的に苦手なんで』
「察した」
確かに彼女は昔からそうだった、と苦笑する私。
以前部活仲間と彼女の実家に行ったことがあるが――彼女の部屋はもはや物置小屋と化してしまっていたのである。
世の中には、整理整頓が壊滅的に苦手な人間もいるのだ。彼女もその一人だったというわけだろう。
最初のコメントを投稿しよう!