つれてきた、つれてきた。

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 ***    彼女が借りたアパートは、大学から徒歩五分という好立地にあった。  その代わり駅からは徒歩ニ十分と少々遠いが、学生生活を続ける間は学校が近いことの方が大切だったのだろう。何度か見かけたことのあるアパートである。全体的に黄色い煉瓦が積まれたようなデザインで、思った以上に綺麗なところだった。なんでも、建築されてまだ七年しか過ぎていないらしい。 「おー、家具とかはもう入れてもらったんだ?」 「はい」  アパートの三階、305号室が彼女の部屋である。業者に頼んだおかげか、家電や家具の類はちゃんと所定の位置に収まっていた。  問題は、こまごまとした私物の方だろう。引っ越して既に一週間が経過するはずだが、ほとんどのダンボールが積み上げられたままになっている。  にも拘らず、リビングの床にはすでに大量の衣服が散乱しているというなかなかの状態だ。 「あんた、これ足の踏み場探すだけで大変じゃないの。寝る場所はどうしてんの?」  呆れて尋ねると、キッチンにお茶を入れに行った彼女から声が飛んできた。 「適当に蹴ってます。蹴ってスペース開けるんです。えい、えーいって!」 「……あの、パンツとかブラジャーが普通に落ちてるんですけど。って、あんた、生理用品まで落ちてる!はっずかし!」 「女の子しか呼ばないから平気です!」 「女同士でも恥ずかしいっつの!」  なんだこれは、漫才か。呆れつつ、そう言えばこういう子だったわ、と思い出す私である。  こう言ってはなんだが、水葉はかなりの美人だ。ふわふわとしたセミロングの髪に、やや童顔の丸っこい顔。ちょっとしたお姫様のような、女の子らしい美少女だろう。その上、男女ともに分け隔てなく親切にすることから、高校時代からにモテていたことも知っている。  そう、見た目だけならお嬢様系の美人なのに――何をやるにしてもズボラなのが玉に瑕なのだ。ずどーんと部屋のど真ん中にひっくり返っている“夜用”と書かれた袋を見て、私は渋い顔をするしかないのだった。封が開いていないのが唯一の救いか。 「今お茶入れます。テーブル出しておいてください!」 「あのねえ」  一応、招いてくれた意識はあるらしい。茶を入れてくれるのもありがたいと言えば有難いが。 「……テーブルどこよ?」  彼女の丸テーブルは、その上に置かれたパソコンと一緒に大量の衣類に埋もれていた。  おのうち火事でも起こさなければいいのだが。
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