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引っ越しに限ったことでもないが。
整理整頓をしていると、ついついアルバムとか本の類で手が止まってしまうのはよくある事だろう。
特に水葉の場合は一人でたくさん旅行をするタイプだったこともあり、全国各地の面白い写真をいっぱい持っているのだ。
一つアルバムを開けば、次から次へと水葉の面白いオカルト話が飛んでくるのも良くなかった。
『この写真はですねえ、通称イワヤマ峠って言われてるところなんです。昔は落石事故でたくさん人が死んだらしくって。お呪文を唱えないで峠を登ろうとすると、上から岩が降ってきて本当に死んじゃうとかで』
『あああ、これ、これですよ廃病院!廃墟マニアの中でも有名なんです。中は崩落してるしぐっちゃぐちゃで危ないので入れなかったんですけど、建物の敷地までは行くことができて。なんでも、この病院にはお医者さんにいじめられて自殺した看護師さんの幽霊が憑いてるらしくて、その無念を訴えるべく病院に近づいた人に憑りついてずーっと傍にいるんですって。放置するとそのまま体を壊して……』
『あ、見つけちゃいました?この学校もオカルトマニアの中では有名らしいですよ。つい少し前まで使われていた学校だから見た目は綺麗なんですけど、逢魔が時に中を覗くと黒い人影が闊歩していて、そいつらに見つかるとどこまでも追いかけてこられるとかなんとか……』
『そっれー!それですそれ!魔除けのお守りとして、よくわかんないおばあさんに貰ったんです!貴女は呪いを受けてるからこれで防ぎなさいとか言われてたんですけど、引っ越しの準備してる時に落として割っちゃって。あ、これ、その胡散臭いおばあさんとのツーショットなんですけどね!?』
こんな調子。
そりゃあ、整頓作業が終わらないはずである。
「……水葉。これじゃ駄目だわ。もっと集中しないと、いつまで経っても終わらんわ」
「……わたしもなんか、そんな気がしてきました」
私の言葉に、水葉が苦笑して答える。ダンボールを一つ開けて一つものを取り出すたび、その思い出話を語っていては春休みが何日あっても足りないだろう。
少なくとも入学式までには、まともに生活できるくらいには作業を進めなければいけないというのに。私はため息をついた、その時だった。
がりがりがりがり。
妙な音が、聞こえた。
え、と私は周囲を見回す。気のせいか、と思った瞬間またしても聞こえるその音。がりがりがりがり。がりがりがりがり。まるで誰かが、壁をひっかいてでもいるような。
「ね、ねえ水葉。この音、なに?」
「え?」
聞こえている。気のせいとか、幻聴とか、それでは片付けられないほどはっきりと。
それなのに。
「音ってなにがですか?先輩」
私は絶句するしかなかったのである。私の耳には嫌になるほど聞こえているその音が、水葉には一切聞こえていない様子だったから。
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