第1章

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 たとえば。何の前触れもなく、いきなり「結婚しなさい」と言われたとて。  「はいそうですか」と言って納得できる人間が何処にいるのだろうか。合わせ、それを告げられたのが二十代前半の、年頃の女性だったとして。簡単に納得して、受け入れられるわけがないのだ。 「……お祖父さま」  私の目の前。テーブルに肘をついて、頭を抱えるお祖父さまを見て、私は小さくそう呟く。  お祖父さまの目の前には、いわゆる手紙があった。花柄で華美な封筒。いかにも、美麗(みれい)ちゃんが好みそうなものだ。 「悪いが、これは否応なしに決まった。我が宝生(ほうしょう)家の本家の女児で、未婚なのはお前だけだ」  ……それはまぁ、そうなのだけれど。  かといって、本当に「はい、そうですか。わかりました」と答える元気は、私にはない。  だって、私は本家の人間とはいえ、自由気ままに育ってきた人間だから。 「お前の父には、話は通してある。お前が了承したら、いいということだ」 「……そうですか」  目を伏せる。  だって、それしか言えないじゃないか。  お父さまも了承しているのに、私一人のわがままでなんとかなるような問題じゃない。
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