第三章 消える鯨 三

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 道原は優れた能力を持っている。他の兄弟と比較しても、優れている存在なのだ。 「道原。俺の所有者は四乃守ではなくて自分だ!そう主張できるのならば出て来い」 「…………分かりました」  何か嫌な予感がするが、道原の中でスイッチが入ったような感じがする。  梅花の連中は、すぐに暴走するので、理性的で常識のある道原が、ストッパーになって欲しい。だが、うまく機能してくれるのか分からない。 「道原。俺は、道原が超お気に入り。面倒見はいいし、気が利く」 「ありがとうございます」  だから、無理はして欲しくない。 「でも、俺も裏社会の男です。自分のモノに、手を付けられた時は怒ります」 「それは正しい」  男は、守るモノを持った方がいい。 「夏目さんに手出しされたら、許せません」 「俺はモノではない」  俺はサルであっても、モノではない。 「いざとなったら、親父をどかして、俺が道原のトップになります」 「………………兄貴たちが怖いぞ」  だが、道原の目には迷いが無かった。 「母よりも怖くありません」 「未久さん、どこまで怖いのだ!!」  だが俺は、食事が終わると、道原を家に帰した。そして、有島と一緒にレストランを出た。 「道原、ちゃんと家に帰ったかな……」 「夏目さん、煽るから……」  レストランを出ると、有島は電車で移動していたので、俺を抱えて駅に向かって歩いていた。  通常社会の街並みは、ここがオフィス街のせいか静かで、歩く人も小綺麗に整っていた。俺も通常社会で生活していたのに、裏社会に慣れてしまったのか、この清潔な社会には居場所が無いように感じる。 「静かだな……」 「勤務時間ですからね……ここには、学校とかも無いですし……商店もない」  通る車も綺麗で、ここにはトラックも少ない。 「駅に向かっているのか?」 「そうですが……目立ちますね」  俺をそのまま連れて歩いていたら、このオフィス街では異質過ぎる。 「裏社会とは違うな」 「裏社会は、電車で行ける距離にあっても、別の国みたいなものですからね」  裏社会のオフィスは、もっとワチャワチャとした賑やかさがある。それに、道もこんなに綺麗ではないし、屋台も多い。裏社会は生活感に溢れているが、お世辞にも綺麗とは言えない。  どちらの社会が住み易いのかと聞かれれば、通常社会の方が安全で住み易いと言えるが、好きかと聞かれたら返答に困る。俺は多分、裏社会や地下社会の方が性に合っている。 「……それで有島、どうして俺はこの位置?」 「ペットは肩に乗せるものでしょう」
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