26人が本棚に入れています
本棚に追加
「もしもし?」
私は"ゴメンね"と、顔の前に手をやって柏谷くんに背を向けた。
『あー…今、運転中?』
「ううん、サービスエリアで休憩中」
私は怒っていることを伝えるために、わざとにぶっきらぼうに答える。
すると一星が『あのさ…さっきは悪かった…』と、素直に謝ってきた。
しかし、腹の虫がおさまらない私は「本当よ…なんだったの?」と、柏谷くんを気にしながらも、口調を強めた。
『うん、俺さ…実はコロナになっちゃって…』
思ってもいなかった返答に、私は「え?」っと自然に声が漏れた。
『だから~…コ・ロ・ナ!』
一星は私が聞こえなかったと思ったらしい。
口調を強めて再び告げた。
「えぇー?熱は?大丈夫なの?何よぉ~…さっき、そう言ってくれたらよかったじゃない…」
私がそう言うと、一星は「言ったら帰らなかっただろ?……母さんにも…それにばーちゃんにうつしたらマズイっしょ…」
あぁ、それであの冷たい態度?
私にうつさないようにするための配慮?
電話口の向こうで、一星がゴホゴホと咳をする。
「そんなこと…バカだね…」
不器用な一星の優しさに触れて、涙が次々に溢れ出す。
『熱はさがったから…作り置きのオカズ助かった。サンキューな……それだけ』
そう言って、プツリと通話が終了した。
それからすぐに『気をつけて帰れよ』のメッセージが届いた。
私は、スマホ画面のその文字を眺めてフフっと笑って泣いた。
最初のコメントを投稿しよう!