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一星が家を出てから毎日、何かしらのメッセージを送っているのだが、返事は三回に一回くらい。「既読がつけば元気な証拠だ」「くだらない内容に返事いらないでしょ」と、相変わらず一星はクールだ。
昨晩、「明日行くからね」と伝えるために何度か電話したのだが、全くつながらなかった。仕方なく出かけ前に『昼過ぎに、お弁当持って行くからね』とメッセージを送ると、すぐに既読がついた。
今の若者は「わかった」の「わ」とか「了解」の「りょ」とかで返事を送るらしいと聞いたが、なんならそれでもいい、スタンプでもいいさ。何か反応しろよ!と、私は学会の間中モヤモヤしていた。
空は分厚い灰色の雲でおおわれ、昼間だというのに薄暗い。
ピンポーン
今どきレトロなドアフォンのボタンを押す。
一星の部屋のそれは、来客をお知らせするベルが鳴るのみで、マイクでの応答すらできない。
出てくる気配がないので、ピンポンピンポーンとしつこく鳴らした。
まさかいない?と、思った瞬間ガチャりと玄関ドアが開いた。のっそりと出てきた一星は、上下スウェット姿でいかにも寝起きだった。そして、私の顔を見るなり「え、何で?」と、目を見開いた。
「なぁに〜?来るって連絡したでしょ…既読ついたよ〜?」
私がそう言って部屋に上がろうとすると、既のところで制止される。
「ちょっと、無理……ゴメンけど…帰って」
一星は袖を口に当ててから、部屋の方を向いた。
「え?何、どういうこと?」
一星は私の言葉に耳を貸さず、一方的に「悪い」と言ってドアを閉める。
「ねぇ、ちょっと…一星?」
ガチャン
私は息子に閉め出された。
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