猫かぶりな私たち

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 自分が外面を作った人間であることなんて理解してる。  よく見てもらいたい、嫌われたくない、きらきら輝いていたい。  だから笑顔っていう仮面を身に着けて、いつだって愛想笑いを浮かべて、わざとらしいほどに相槌を打つ。  それが私――新美(にいみ)(なつ)という人間だっていうことは、私自身が嫌というほど知っていて。 「夏ってさ……猫かぶってるよな」  だから、わざわざ現実を突きつけるのはいただけない。  その日、幼馴染の(しずか)(れつ)は言った。  学校帰り、途中で寄った公園のベンチにて。なんてことない会話の折にポロリと漏れたように告げられた言葉は、間違いなく彼の本心だった。  しまった、というところまでセット。  今日が四月一日。エイプリルフールということを加味しても、そこにはあまりにも嘘の気配がなかった。 「……だからどうしたっていうの?」  彼の前でだけ、私が被った大きな毛皮は、あっさりと剥がれ落ちる。あるいは私自身が脱ぎ捨てる。  だって、今更烈の前で取り繕ったって仕方がないから。  自然体で居られる、特別な相手――なんてことはない。ただの腐れ縁。  中学二年生まで何となくつるんでいる異性に、特別な意味を見出せるのは他人目線だけなんだから。  だからこそ、怒りだってまっすぐに吐き出せる相手で。  でも口をついて出ようとした言葉はのどに引っかかって止まった。  それは、今日がエイプリルフールだと改めて意識したから。  何より、烈が突然、私のほうへと手を伸ばしてきたから。 「実際、猫かぶってるもんな」  上手いこと言ってやった、みたいなどや顔とともに、彼は私のカーディガンのフードをぴらぴらと持ち上げて揺らす。  白いカーディガンのフード。そこには耳がついている。もちろん、猫の耳。  これ見よがしにかぶせようとしてくるそれを、頭を強く振って払う。髪が崩れたらどうしてくれるんだ、なんて、私自身が髪を乱しているのだけれど。  とはいえ乙女の髪に突然触れようとする烈が悪い。  烈の腕を振り払うために大きく振るった手から落ちたカバンが地面に転がる。  入学式準備のために荷物は軽くて、だから偶然開いてしまったカバンから零れ落ちたのは筆箱だけ。  ただしそれは、落ちた衝撃でファスナーがカバンの内側に引っかかって開いてしまったみたいで、カラフルなペンが散乱する結果となっていた。 「あーあー、ったく、何してんだよ」  ぶつぶつと言いながら拾う烈の丸まった背中を眺めながら、烈のほうが猫みたいだ、なんて思って。  何とはなしにフードについた猫耳に触れていたら、電撃のようにひらめきが生まれた。
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