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「あ、あ。あああああああ」
道行の部屋に閉じ込めていたアレを外に出してしまった千代は絶望した。
ところが、道行を目にした梅は平然としている。
「千代は何が怖かったの?」
「梅ちゃん! こんなデカいの現れたらビビるでしょ?」
「デカいだけじゃん! 手足も無いよ」
何を言っている? 俺の手足はあるぞ。
「魔とかお化け関係は、先生じゃないと分からんこともあるでしょ? 変な胞子まき散らされたら、どーすんの!」
千代と梅が、混乱する道行を置いて言い合いを始める。
「はーい。お嬢ちゃんたち。落ち着いて」
泰然とした知秋の声で、三人の視線は彼女に集中した。
「おれ様に任せろ。祓い屋の真似はできるんだ」
知秋は道行を見下ろし、彼を上から下まで見回してから視線を合わせた。
彼女の大きな眼が、さらに少しばかり広がった。
「呪詛じゃねえか」
これには道行が驚いた。
「やはり、私はちょっかいを出されたのですか?」
「道行、こうなると知ってたのかい? ちょっかいというには悪質だぜ」
「そんな……あの、私の姿は一体どうなっているのですか?」
「おお、道行よ。今の君はな……」
人の大きさの松茸。彼は周囲の視線が刺さる中、朝食の席についた。
松茸の前で箸と茶碗が浮き上がる。そして、箸が米粒を掴み、その米粒が消えた。
そんな世にも珍しい光景を千代と梅、後から起きた石上正彦と井村恵子が横目で窺う。
「コラ、君たち。気になるのは分かるけど、見られる道行の気持ちも考えな。ところで、桜花ちゃんの持ってきた干物焼いてみたが、旨いね。道行も食え」
「……はい」
知秋に勧められた松茸は魚をほぐし、再び口に該当する箇所に運ぶ。
「しょげるなよ、道行。おれ様には、アキに次いでハンサムな坊やに見えているからね」
そうは言ってもらっても、他の四人の眼には人語を発する巨大松茸が映っている。
「飯食ったら祓うよ。久遠先生は忙しいから、まずはアキを呼ぶね」
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