第1話 店先で剥く行為

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 そうして連れられた先には、荘厳で偉大さを感じさせる建物がある。王城だった。 「聞け、犯罪者。今日は国王陛下のお裁きがある日だ。そこでお前の罪が確定になる。牢屋に入る時間が少なくて良かったな」 「ええ!? 僕、何か悪いことしたんですか?」 「白々しい。そんな態度でいられるのも今のうちだぞ」  衛兵との会話が終わる前に、ティベリス達は謁見の間にたどり着いた。そこは既に行列が出来ており、順々に裁判が執り行われているようだった。順番を待つ間も、遠くから裁判の様子が聞こえてきた。 ーー陛下。この者はケンカです。酒に酔って暴れておりました。 ーーならば、そやつは労役10年に処する。連れて行け。 ーー陛下。こちらは詐欺師です。正当な理由なく、冒険者ギルドから5ディナを多く受け取りました。 ーーでは、労役20年に処する。  裁判とは言うものの、証拠の検証や自己弁護の機会も無かった。ひたすら淡々と刑罰を定めるだけだった。  それでもティベリスは、いくらか落ち着きを払っていた。これは何かの間違いだ。話せば分かってくれると、そう信じていた。  やがてティベリスの番がやって来た。謁見の間には、初老の王が玉座に座って待ち構えていた。周囲には数名の文官の姿もある。 「陛下。この男はとんでもない凶悪犯です。一言で申せば卑猥罪。その、あまりにも凄惨なので、あらましをどう説明したものか……」 「構わん。はっきり申せ」 「では、お耳汚しとなりますが……。このティベリスをという男、あろうことか、街の往来で例のものを貪り食おうとしておりました」 「例のものとは?」 「ば、バナナでございます。さらには、人目もはばからずに、皮を剥こうと」 「なんだと? それが事実なら決して許されんぞ」 「更には、乞食の少年少女にも施しを与えていたという、目撃証言もありました」 「何の為に? メリットなど無いだろう」 「はい。そのため、大掛かりな犯罪を企んでいたと言えるでしょう。食事を施して恩を与え、駒として扱おうとしたのでは」  ティベリスは思わず叫びそうになった。悪巧みなんてない、純粋に可哀想に思えたからだ。しかし、口を開きかけた瞬間、衛兵がティベリスの首を絞め上げた。直言する非礼は許されていない、という。 「陛下、このティベリスという男は、重罪人であることは明白。死をもって償わせるべきかと」 「うむ、確かに邪悪極まる。目を背けたくなるほどに醜悪だ」 「ならば速やかに処刑しましょう。街の者達は、定期的に血を見ないと不満を溜めてしまいますので」 「いや待て。この男はまだ若造だ。殺すよりも働かせるべきだろう。無期労役の刑に処す」 「……御意。では衛兵よ、連れて行け」  やはり裁判は一方的だった。一言すら自己弁護する機会を与えられなかった。ティベリスは激しく混乱した。衛兵に連れ去られる間も、大声を喚き散らしてしまう。 「待ってください、バナナを食べたら何が悪いんですか? ちゃんと納得のいく理由を教えてくださいよ!」 「口をつつしめ! これ以上罪を重ねるつもりか!」  そうしてティベリスは囚人となった。間もなく馬車に詰め込まれ、労役の作業場へと送られていった。  胸の中に、剥けなかったバナナを抱きながら。
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