1. 最低で最良の日

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出品される人間は、みな名前を奪われてただ番号として呼ばれる。 たとえ競り落とされてここから出られたとしても、新たな主人に名前を付けられるのだから必要ないというわけだ。 私がここに連れてこられ売られてから3日目。 今日、私はオークションにかけられることが決まっていた。 私の名前はアンゼリカ・ヴラディカ。 元々は小さな田舎の男爵家ヴラディカ家の令嬢だったけれど、父が友人から持ちかけられた事業に失敗し没落して一家離散。 当時10歳だった私は養護施設で2年間過ごした後、12歳のときからさまざまな屋敷のメイドとして働き、16歳のときにはボードウィン伯爵家のメイドとして働くことになった。 ボードウィン伯爵家での暮らしは、今にして思えば没落した家の娘である私には身に余る幸せだった。 初めは下働きから始まるも、没落したとはいえ元男爵令嬢だった私は社交界の礼儀やマナーなど一通りの作法は見についていたおかげで伯爵夫人の目にとまり、伯爵夫人付きのメイドとしてとても良くしていただいた。 あのことが起こるまでは――― 「おい11番!聞いてんのか!」 その声に、過去に思いを馳せていた私は途端に現実に引き戻される。 顔を上げると、先ほどの大男が鋭い三白眼に怒りを湛えていた。 「…っ、す、すみません…」 「てめえ商品の分際でふざけてんのか!」 大男が大きく手を振り上げる。 ぶたれると思って身を小さくするも、その衝撃はいつまで経ってもこなかった。
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