5. 溺愛と嫉妬と

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そして今日も双子の二人とおしゃべりをしながら、夕食の準備を手伝わせてもらっている。 「そういえばアンゼリカ様ってボードウィン伯爵家で働いていたんですよね?」 「うん、そうだけれど。どうして?」 カーリーがシチュー用の人参をテンポよく切りながら、声をひそめる。 「ボードウィン家の当主、爵位を剥奪されたらしいわよ」 ―――えっ…!? 私は思わず、じゃがいもの皮をむく手が止まってしまう。 「友達の知り合いがボードウィン家で働いてたんだけど、つい先日に暇を出されたって。お屋敷はもちろん土地も資産も全部没収ですってよ。相当借金も抱えていたらしいわ」 メイドの間にも情報網というものがある。特にいろいろなお屋敷を渡り歩いている人ほど、いろいろなところでメイドの知り合いがいるので、そこから噂話が広まることも多いのだ。自分もメイドだったから分かる。 「伯爵夫人もどうなるのかしらねえ?簡単に離婚なんてできないしお子様たちもどうするんだか」 「いったん、伯爵夫人の実家に身を寄せるって聞いたけど」 「もう伯爵夫人じゃなくて『元』伯爵夫人だけどねえ」 私は二人の話を聞きながら、テオドールさんにボードウィン伯爵家での話をしたときのことを思い出していた。 (あのとき、明らかに纏う空気が変わった…) ―――これは、偶然? 私はある一つの可能性に行きついてぶるっと身震いをして、すぐにその考えを打ち消す。 (まさかそんなはずはないわ。私があの話をしたからって、テオドールさんが伯爵家に何かするなんて…しかも爵位を剥奪なんて簡単にできることじゃないもの……) そんなことをとめどなく考えているうちについ手元がおろそかになって、私は左手の人差し指をナイフで切ってしまった。
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