5. 溺愛と嫉妬と

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「…あの、ボードウィン伯爵家のことなんですけど…爵位が剥奪されたというお話は本当なんですか?」 私の口からその話が出たことに驚いたようだけれど、すぐに「そうだよ」と何でもないことのように言った。 まるで、まったく興味関心がないかのように。 「お屋敷にいた子どもたちは…どうなるんでしょう?」 「さあ…今は王都にある学校に通っているらしいけど、学費も払えなくなるだろうし恐らく退学だろうね」 「そんな…」 私に懐いて慕ってくれたお子様の顔を思い出すと、胸が張り裂けそうになる。 「その…お子様たちだけでも、何とかならないんでしょうか?」 「どうしてアンゼリカがそんなに気にするの?君に酷いことをして追い出した家だよ?」 その一言で、私は自分の予感が当たっているのかもしれないと思った。 『僕に楯つく人間がこの国にいるとは思えないけれど』 もしかして本当にテオドールさんが…?分からない。それに、どちらにしても私がこんなことをお願いできる相手はテオドールさんしかいない。 「あの子たちはずっと私のことを慕ってくれていました。それに私が屋敷を出ることになったときも最後まで引き留めてくれたんです。本当に良い子たちで…だから、」 養護施設での暮らしの辛さはよく知っている。 あの子たちが同じような経験をするのかもしれない、しかもその引き金が『私』なのだとしたら――そう考えると居ても立ってもいられなかった。 「……君のその顔を見ると僕は断れないって言ったのに。本当に狡いね君は」 そう言ってテオドールさんは、私の頬を両手で包んで上を向かせる。 柳眉が下がり、少し困ったようなやれやれと言ったような表情だ。 「…分かった、君が望むようになるよう手配してみるよ。 それから、確かに当主から爵位は剥奪したけれど完全に家を失くすわけじゃない。いずれ君が心配している彼らのうちの誰かがその地位に就くことも制度上は可能だよ」 「本当ですか…!?」 テオドールさんが安心させるように優しく教えてくれて、私はほっと胸を撫で下ろした。 「仕方がないね、君のそういう優しいところも好きだから」 好き、という言葉に胸がぎゅっとなって、顔に熱が集まる。
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