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部屋を出て廊下を歩き、階段を下りていく。
すると、正面から一人のメイドがこちらに向かって歩いてきた。
確か名前は…ジェニーだったと思う。
普段からカーリーたち他のメイドとはあまり絡まない、一人で黙々と作業をしているタイプで私は直接話した記憶はなかった。
彼女は顔を上げて私の顔を認めると、眉をひそめてあからさまに不快感をあらわにした。
私はビクリとして、足早にすれ違おうとする。
すると、ちょうどすれ違いざまに彼女は足を止めた。
「……んで、あんたなの…」
「…えっ?」
「なんであんたなの?所詮お金で買われた汚い小娘のくせに!テオドール様にとっては新しい人形よ、飽きたらすぐに捨てられるんだから!」
突然投げかけられた言葉に、私はショックを受けた。
でも、心のどこかで、ずっと燻ぶっている気持ちをはっきりといい当てられた気がして、頭を殴られたような衝撃が走った。
飽きたら捨てられるんじゃないか。
そうしたら、私はまた売り飛ばされるではないか。
たとえ過去に顔見知りであったとしても、所詮は買われた身分―――『商品』の行く末は、よくて奴隷か愛玩人形か。
そもそも、過去に知り合いだったというあの話は本当なの?
どうして私はいつまで経っても思い出せないの?
次第に呼吸が苦しくなって、私はその場に膝をつくと倒れ込んでしまった。
ジェニーの叫び声と、バタバタといろんな人が駆けつける音。
セトさんがタオルや氷の用意の指示を出す声が遠くに聞こえる。
はっきり記憶に残っているのはそこまでで、私の記憶はぷつりと途切れた。
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