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「そうか……」
テオドールさんは、ふっと息を小さく吐き出すと私の頬に手を添えて上を向かせた。
「君の不安の一番の原因は記憶が戻らないこと。そして、ここで何もせずに日がな1日過ごすのが耐えられない。そうだね?」
「……はい」
「じゃあ君に仕事を与えるよアンゼリカ」
突然の提案に、私は驚いて目を丸くする。
テオドールさんからは先ほどまでの冷え冷えとした雰囲気は消えていて、まるで私を慈しむように微笑んでいる。
「まず第一に、しっかり体調を整えて元気になること。
そして体調が戻ったら…僕の部屋の本棚を覚えている?あの本棚の本を1日1冊読むこと」
「それが……仕事ですか?」
「そう、とても重要で――君にしかできない仕事だよ」
それは仕事ではなく娯楽なのではないだろうか。
私はテオドールさんがどうしてそんな提案をしたのか一生懸命考えるけれど、どうしても分からなかった。
でも、不思議とテオドールさんが冗談やごまかしでそう言っているわけでもないのは、彼が纏う空気で分かる。
彼は真剣に、これを仕事として私に役目を与えようとしているのだ。
私が分かりましたと頷く。
テオドールさんは私の髪を一房すくいあげると、そこに小さくキスを落とした。
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