1. 最低で最良の日

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支配人の男性に言われた通りに通路を進むと、ブロンドヘアの女性が待っていた。おそらく彼女がカミラなのだろう。 私たちがいるところはいわゆる舞台袖だ。 私が持っていた懐中時計やペンダントといった所持品は、ここに売られて名前を奪われたのと同時にすべて取り上げられてしまった。 なので、今が何時なのかはまったく分からないけれど、次第に競りを待つ人たちのざわめきが大きく聞こえてくるにつれて、そのときが近づいているのだと肌で感じる。 これからオークションが始まると、私は正面のステージに連れて行かれ、そこで彼らの好奇と目踏みする目にさらされるのだ。想像するだけで吐きそうになる。 (嫌だ、逃げたい…でも逃げられる場所なんてどこにもない) 鳥籠のようなものだ、と思う。 自分の意思で逃げることなどできないし許されない。 そしてそれは、この場所を出られたとしても変わらない。また新たに用意された別の鳥籠に閉じ込められるだけなのだから。 「本日はお忙しい中ようこそ当オークションへおいでくださいました。今宵も皆様にご満足いただける商品を多数ご用意しておりますので、きっとお眼鏡に適うものが見つかるかと存じます」 そうこうしているうちに大きな鐘の音が鳴り、競売人の朗々とした声が聞こえてきた。 「それではどうぞ最後までごゆっくりお楽しみください。さっそく始めさせていただきましょう。エントリーナンバー1番」 「ほら、行くわよ」 私はカミラに手を引かれるかたちで、舞台袖からステージへと引っ張り出された。 舞台の真ん中で正面を向かされる形で私を立たせると、カミラは去り際にさりげなく耳打ちする。 「競売が終わればまた私が連れて戻るから、変な気を起こすんじゃないわよ」 要は『逃げ出そうとして無駄だ』とクギを刺しているのだろう。 それは分かっている。 たとえこのステージから逃げ出せたところで、建物の外にはたくさんの見張りが待ち構えていてあっという間に捕まってしまうのは目に見えていた。
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