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「はい、8年前の夏のこと思い出しました。初めて会ったときも、それから夏の間一緒に遊んだことも、最後の日のことも…」
そして、この栞に込めた想いもすべて。
「私、あのときからずっとテオドールさんのことが好きでした。でも、もう会えなくなることが分かっていて…しかも10歳の私からの告白なんて困らせてしまうと思って」
「それでこのスターチスを?」
「はい」
花言葉は、さっきテオドールさんが言った通り。
「花言葉ご存じだったんですね」
「うん。あのとき寄宿舎に着いてから栞に気がついて…嬉しくて、舞い上がってどうにかなりそうだった。でもしばらくしてからヴラディカ家のことを聞いて、目の前が真っ暗になったよ」
「本当に…ごめんなさい」
「どうして謝るの?君は何も悪くない。それに今こうして、君は思い出してくれた」
テオドールさんが、知らずにこぼれ落ちていた私の涙をそっと指で拭う。
「好き、好きだよアンゼリカ」
テオドールさんの唇が私の唇に触れて、息が止まる。
軽く触れて離れたかと思うと、またすぐに押し当てられてだんだんと激しさを増していく。
「…んっ、テオドールさんっ、」
私の手から、するりと栞が落ちていくのが視界の隅で見える。
「テオって呼んで、昔みたいに」
「……好きです、テオ」
言葉では伝えきれない感情をぶつけるかのように。
食べ尽くされてしまいそうな激しい口づけが、私を翻弄して激流の渦へと飲み込んでいった。
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