8. エリート貴公子の甘い執着愛

2/3
378人が本棚に入れています
本棚に追加
/55ページ
彼女の父は確かに騙されたかもしれない。 でも、あんな酷い状態になる前に途中で引き返すことはできたはずだ。 もともと事業の才などないにも関わらず話に乗り、それから勉強を怠って家を危機に陥れた。 いくら騙されたとはいえ、父親の罪は重い。 「よろしいんですか?」 「アンゼリカを会わせるなんてもってのほかだ」 アンゼリカは優しい。 けれど優しすぎて、例えば父に泣きながら請われたら彼女はきっと許すだろう。 そして、同情を引くようにもう一度だけ暮らそうと懇願されたら。 きっとその手を振り払うことはできないに違いない。 もしもそうなったら? 父と暮らすと言って、ここを出て行くようなことになったら? そんなことは絶対に許さない。 だから、会わせることなどしない。 幸いアンゼリカは父母の行方を知らない。 アンゼリカが僕と結婚し名実共に妻となるまでは、今はこのままでいい。 僕はマッチを擦ると封筒に火をつけて燃やし、火のついたそれを銀のトレーの上に落として手紙が燃えカスになるのを見つめた。
/55ページ

最初のコメントを投稿しよう!