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闇オークションは人身売買の場だ。
あの場所に参加する人は私たちのような『商品』を人だとは思っていないものだと思っていた。
買い取られて早々に殺されて、目をくり抜かれ爪をすべて剥がされた女性の死体が川に上がったという嘘か本当か分からない話を、あの待機部屋で聞かされもした。
行く末はよくて奴隷か愛玩人形か――それなのにこの人はあんなふうに、まるで私を多くの視線から守るようにしてあの場から連れ出してくれた。
この人はいったい何者なんだろう。
どうして2億なんていう信じられない大金で私なんかを?
いくら考えても分からなかった。
「一つ聞いてもいいかい?」
「っ、は、はい」
「君の名前は?」
(……な、名前?)
私は膝の上に置いていた手をぎゅっと握る。
『今日からお前たちは番号で管理される。競り落とされた場合、新たな主人が名前を与えてくださる。だから過去の名前は決して名乗るな』
あの場所に連れてこられたときのことを思い出す。
名前は奪われた。もう名乗ることも許されないものだと思っていたのに。
本当に言っていいのかどうか分からなくて戸惑っていると、隣りに座る男性が私の左手をそっと握る。
「教えてほしい。君の本当の名前は何という?」
まるで懇願するかのような響きと視線に、私は―――
「アンゼリカ・ヴラディカ…です」
そう言うと息を呑むような、それでいてゆっくりと安堵の息を漏らすような、そんな気配がした。
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