1. 最低で最良の日

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1. 最低で最良の日

「愛してるよアンゼリカ。もう二度とこの手を離したりしないからね」 そう言って私の手を恭しく持ち上げた。 そして手のひらにそっと口づけを落とされると、触れられた場所は途端に熱を持ち私の体は甘く震えた。 (もう、逃げられない…) ◇◇◇◇ 「おい、番号11どこだ!早く来い!」 怒鳴るような声が響き渡り、狭い部屋に押し込められひしめき合う女性たちがビクリと肩を震わせる。 私は着せられたみすぼらしい服に縫い付けられた『11』という番号を見て小さく手を挙げると、先ほどの大声かつ大柄の男性に腕を掴んで立たせられ引っ張られた。 「ぐずぐずするな!早く来い!」 (…う、痛い…) 私は掴まれた手首が痛むのを我慢しながら、俯いてついていくしかない。 ここでは私たちの感情や意思などないに等しいのだから。 私がいる場所は、スーデリア国の王都・エルンストにある、地下の闇オークションの会場だ。 この国では人身売買は表向き禁止されているが、世の中には常軌を逸した趣味を持つ者もいて、その一つが『人間コレクション』。 珍しい肌や目の色、変わった痣の持ち主などがその一例で、ただ単純に容姿を好んで競り落とす者も多い。 特にこの地下でのオークションは『高貴な身分』や『富豪』とされている人たちを多数顧客に持っているらしく、不定期に開催されるこの闇オークションは公然の秘密となっていて、警察といった公的機関からも見逃されているという。 私はここに売られてくるまで、王都にこんな恐ろしい場所があるだなんてまったく知らなかった。
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