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明らかに具合の悪そうな由依の肩を母親が揺さぶる。それでも由依は健気に頷き、膝に置いた手を強く握りしめた。
『お、お父さん、女の人と電話してて……その、今夜、ホテルに行って、朝まで……』
由依の唇がわなないて、言葉が止まる。もはや彼女は倒れそうだった。面上からは完全に血の気が引き、拳がぶるぶる震えている。
母親がチッと舌を打った。
『しゃんとしなさいよ。ちゃんと言わないとあいつの浮気が認められないのよ!? 慰謝料がもらえなかったら、由依だって高校に行けないんだからね!』
『ご、ごめ……』
その瞬間壱成は立ち上がり、由依と母親の間に割って入っていた。母親が苛立ったように『何よっ』と甲走った声を上げる。
『やめてもらえませんか。この年齢の娘さんに言わせることじゃありません。それに写真だけで十分です。証言なんかなくても慰謝料を請求できる。うちには凄腕の弁護士が揃っているんです』
壱成の後ろで由依がおずおずと顔を上げた。ちらりと振り返ると、大きな瞳いっぱいに涙を溜めた由依が、驚いたように口を開けていた。
『な……っ』
『まあまあ、落ち着いてください』
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