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——二十八歳の誕生日、彼氏から「大事な話がある」と言われた身としては、全然、悪くない。
思わず口元が緩んでしまう由依に「あ、でも」と葵が心配そうに言う。
「帰る前に、鞘白先生に定時上がりって伝えた方がいいんじゃないですか」
「ええ、そうね。執務室に行ってくる」
自分の担当弁護士である鞘白の名を出され、由依は頷いて秘書室を出た。シックな絨毯の敷かれた廊下を歩き、弁護士が仕事をするための執務室に向かう。
都心に居を構え、百人を超える弁護士を抱える鞘白弁護士事務所では、基本的に秘書は複数の弁護士を担当する。
しかし由依はただ一人、所長の甥にしてエース弁護士である鞘白壱成の専属秘書として働いていた。入所してすぐに配属されて、気づけばもう六年目だ。
この事務所の秘書業務は多岐に渡る。スケジュール管理はもちろんのこと、案件資料の管理や簡単な法令調査に行政手続きまで。きちんと仕事を終わらせないと担当弁護士の業務に差し障るから、勝手に帰宅はできない。
「鞘白先生、ご在席ですか?」
執務室のドアをノックすれば、すぐに返事があった。
「小鳥遊か。入れ」
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