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5 帰したくない
グッズ売り場を出る頃には、日はほとんど暮れて空は深い藍色に染まっていた。丸い月が夜空を照らし、真珠みたいな星が青白い光を放っている。
星彩を遠く仰ぎながら、由依は大きく息をつく。グッズ売り場の入り口近くで、仕事の電話が来てしまった壱成を待っているところだった。しろうさたんは抱えていない。壱成が「重いだろ」と持ってくれたままだからだ。
ふと思いついてバッグからスマホを出す。今日は楽しすぎて、スマホを見るのをすっかり忘れていた。何か重要な連絡が来ているかもしれないと確認して——指先が凍りつく。
「えっ、稔……?」
何十件もの着信と、百を超えるメッセージ。由依は反射的に周囲に頭を巡らせる。壱成の姿は見当たらない。もう少し離れたところで電話しているのだろう。
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