友達

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「和真さぁ、最近スマホばっか見てねぇ?」 それは、ある日の昼休みのこと。 いつメンの3人でそれぞれ持ち寄った昼飯を広げていると、どこか不服そうに眉を寄せた羽柴夏樹(はしばなつき)からそう言われ、俺は袋の中に入れた手を止め、顔を上げる。 「……そんなことねぇだろ」 「あるわ。あります、大ありまくりィッ!」 「うっわうるさ。お前うるさァッ!耳元で叫ぶなや阿呆!」 「2人共だわ。ど阿呆」 「「いでっ」」 そしてこの、思いっきりコーラ缶の角で俺達を殴りやがったこの男の名は、佐々木凪音(ささきなおと)と言う。クソドSだと覚えていればそれでいい。てかまって。めっちゃ痛いんだけど。割れてない?え、血出てるんじゃね?これ。 「ほら、うるせぇ子犬共。支給品だ」 「〜〜ッお前がジャンケン負けたんだろう!?腹いせに殴んなや!しかも角で!」 「そうだぞ凪音。これ以上夏樹のバカを悪化させてやんじゃねぇ。救えなくなる」 「あぁ、それもそうだな。わり、チビ助」 「おいコラてめぇらそこに直れや。こちとら空手部所属の黒帯ぞ」 「「すんませんした」」 と、まあ一連の流れを回収して、と。 「そんで夏樹は、最近の和真に不満が溜まってんだって?付き合ってんなら先に言えよ。寂しいだろうが」 「ちげぇよ馬鹿。俺はッ、巨乳がッ、好きだッ」 「知ってるし。わざわざ身振り手振りで強調すんな。気持ちわりぃ手つきだな」 「好きな人がいるんだ」 「そうそう好きな人__って、えぇッ!?」 俺は、袋の中から取り出したホットドックを開けながら、なんでもない風に告げることにした。だってその方が、自然に話せていいんじゃないかって思ったから。 「……って、あれ。そんな驚く?」 だが、2人にとってこれはあまりにも予想外の出来事だったらしく、あんぐりと口を開けて固まる夏樹の隣で、紙パックのカフェオレを開けようとしていた凪音が、ストローを口に咥えたまま固まってしまう。 「一つ上の学年なんだけど」 「まさかの年上」 「ぇ、マジ?あの、女子の告白全て断った女誑しの具現化人間。佐伯和真が?とりあえず、胸がデカいかだけ教えてほしい」 「ぶん殴っていいか」 この巨乳バカといると会話が進まなくなるのが難点だ。それに対して、同学年の中でもどう考えたって落ち着いているクールタイプの凪音は、袋から取り出したパンを2つ机上に並べ、俺の話を聞く体勢になってくれた。 心做しか、クラス中の女子の視線がこちらに集まっているような気がするが、残念。凪音には他校の可愛い彼女がいるぞ。だから早急に他を当たってくれ。あと、こいつは性格が悪い。頼むから他を当たるんだ、女子達。 「それで?いつ出会ったんだよ」 「えーっと、もうすぐひと月かな」 「どんな人?可愛い?美人?」 「……可愛いし、綺麗」 「胸は?胸が重要だろ」 「だからねぇって。相手男だし」 「あー、はいはい男ね__って、男ッ!?」 はい、デジャブ。 さっきも見た光景に予想通りの反応が合わさって、思わず苦笑してしまったが。 __正直、内心怖がっているのも事実だ。 二人に気持ち悪いとか言われて離れられるのも、明日から一人ぼっちになるのも嫌だし、だからといって嘘をつきたくもない。 我ながら我儘だなと思ったけど、二人にはちゃんと話しておきたかったんだ。 「……いいんじゃん?俺の兄貴もゲイだし」 __うん。なんて? 今度は俺が驚く番だとでも言いたいのか、あんぱん片手に衝撃の事実を吐いた凪音。 「え、兄貴いんの?」 「うん」 「え、おいくつ?」 「1つ上。同じ高校」 「え、ゲイなの?」 「うん。女嫌い激しすぎてマジウケる」 「沈めんぞ愚弟」 ガコッ、と響く鈍い音に目を見開くと、いつの間にか凪音の背後に立っていた青いネクタイの男子生徒が、右手に丸めた教科書を握りしめ、不愉快そうに凪音を見下ろしている姿があった。 「いってぇ〜……なんでいんの」 「お前に買ってきてやったんだろうが」 「あ、さんきゅー。超嬉しい」 「そっち寄越せ。なんで海老嫌いなのにえびアボカドなんて買うんだよ。おまけに買い直し兄貴にさせやがって」 「んなのアボカド好きだからに決まってんだろうが。バカか」 「頭が高ぇンだよど阿呆」 「いっだッ!」 魔王だ。 凪音が悪魔なら、兄貴は魔王。 どうやら間違えて嫌いな海老入りアボカドサンドを買ってしまった凪音が、俺達も知らない間に兄貴に連絡して、代わりのサーモンアボカドサンドを要求。それを、わざわざ下の学年まで持ってきてもらったはいいが、タイミングが最悪だったというわけである。 いや、俺と夏樹どうすんの。 めっちゃ怖いんですけど?
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