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つい、食べながら話をしてしまった。卵焼きを頬張りながらもみさとの言葉の意味を考える。確実な男の攻め方とか、そんなものがこの世に存在するのだろうか。
ちなみに、私のお弁当はいつもと同じ、卵焼きにソーセージ。コロッケにミニトマトだ。
「いや、仁美にあざとさはないしなあ。ところで、メガネ女子になるのはわかったけど、理由はあるの?ていうか、どうして、わざわざ目が悪くないのにメガネをかける必要が?」
みさとの疑問はもっともだ。私はファッションとして、つまり伊達メガネをかけるつもりはない。私はメガネをかけている人が好きだが、私自身がメガネをかけている姿を見てもときめかない。自分にときめくなんてとんだナルシストくらいだろう。
「みさとも聞いていたでしょ、目黒君、メガネの苦労を知る人がタイプだって」
「いやいや、それはおかしい。あんたの脳みそ、ついにいかれたの?目黒君、そんなこと言ってないでしょ」
確かに、タイプとは言っていなかった気がするが、同じようなことだ。要するに彼に好意を持ってもらうために必要なのは『メガネの苦労を知る』。それだけはわかった。
「はあ、その様子だと、本気でメガネをかけたいわけね。いいわ、今日は木曜日でちょうど部活もないし、放課後、一緒にメガネ屋に行ってあげる」
「ありがとう、みさとさま!お礼にメガネをおご」
「いらない」
せっかくの私の感謝を親友はバッサリと切り捨てる。親友は高校に入り、モテるようになったらしい。いわゆる高校デビューというやつだ。
メガネが今までモテるのを邪魔していた、と本人は言っているが、それは違う。メガネ美人だったからこそ、コンタクトにして素顔がさらされ、モテるようになったのだ。メガネにも素の要素はある程度必要である。とはいえ、私からしたらメガネをかけたらどんな人でも魅力がアップする。
「何を熱心に話していたの?」
「それは」
「メガネ女子になる準備についてです!」
隣の席の目黒君がクラスメイトの男子を引き連れて教室に戻ってきた。どうやら、自分の席で昼食を取るらしい。目黒君は自分の席に座り、他の男子たちは彼から離れていった。目黒君は袋からンドイッチ2つと牛乳パックを机に置く。
「もしかして、ボッチ飯?」
「お前、本当に僕の事好きなの?」
「もちろん、運命の」
「いや、言わなくていい」
メガネの買う準備は整った。あとは私に似合うメガネをかけて、メガネの苦労を目黒君と分かち合い、仲を深めるだけだ。
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