4転校生

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 なんと、この男は声まで素敵というオプションがついていたのだ。少し低めのハスキーな声で耳にとても心地よい。ちなみに私はメガネフェチのほかに声フェチでもある。アニメを見るときは、メガネキャラ、推しの声優の二つが被っていたら、その場でガッツポーズをして踊りだしてしまう。 「私の運命の人」 (あれ、これ、昨日も言った気がする……) 「あのねえ、声が思いっきり漏れているけど」  前の席から親友のあきれた声が聞こえた気がしたが、今はそれに対応している場合ではない。 「エエト……」  私の心の声はばっちりと隣の転校生に聞こえてしまっていた。転校初日に見ず知らずの生徒に「運命の人」などと告白されては、困惑するしかないだろう。私が逆の立場ならそう思う。ただし、今の私にそんな常識的な考えはなかった。 「日好、この暑さで頭がいかれるのはわかるが、今は朝のHR中だ。個人的な告白は休み時間にするように」 「わかりました!」  今の私は無敵モードだ。このメガネイケメンを逃がすなと頭の中の私が大声で騒ぎ立てている。むろん、こんな大物、逃がすわけがない。 「目黒君って部活はどうするの?」 「前の学校はどうだった?」 「日好さんとは知り合いなの?」  朝のHRが終わると、転校生の目黒君の周りにはたくさんのクラスメイトが集まってきた。みんな、転校生に興味津々のようだ。私は彼が誰かに取られないか、びくびくしながらも会話に入ることはせず、じっと耳を傾けていた。 「部活は特に希望は無いかな。あんまり運動は得意じゃないから、入るとしたら文科系がいいかな。中学校では卓球部に入っていたけど……」 「前の学校もここと同じようなものだよ。人数も頭のレベルも」 「日好さん、とは初対面の、はず、だよね?」  クラスメイトの質問に律儀に答える目黒君は、メガネをかけているキャラの定番、陰キャではなかった。運動は得意ではないようだが、少なくともコミュ障で人見知りではないようだ。クラスメイトの質問に一つ一つ丁寧に答えている。最後に振られた質問の回答に、戸惑うような表情で私に視線を向けてきた。 「まあ、初対面、かもしれないですね。ハハハ」  どうやら、相手は私が朝の電車で一緒だったことに気づいていないらしい。私だけが浮かれて「運命の人」などと言ってしまったことが、今更ながらに恥ずかしくなる。相手は私のことが言葉通り、眼中になかったのだから。  先ほどまでのハイテンションな気持ちが一気に急降下していく。気持ちが表情に現れていたのだろう。転校生もクラスメイトも黙ってしまい、気まずい空気が辺り一面に広がる。転校生はあごに手を当てて、何やら考え込んでいる。落ち込んでいる私を慰めでもしてくれるのだろうか。  
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