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ドライブの先
俺の趣味は「あてのないドライブ」である。
目的地や走行ルートは一切定めていない。その時の気分のまま車を走らせるのだ。
助手席には誰もいない、俺一人だけのドライブ。誰も誘うことはない。
運転席に一人、何も話をすることなく無心で車を走らせていると退屈を持て余すかと思われるが、案外気楽である。
誰かを乗せて気を使わなくていい故にリラックスも出来ている。
目的もなく、あてもない。それだけに通勤路や買い物では使わない道を行くために、いい景色や美味しそうな食事処を見つけられることがある。
このように新しい発見が出来るのも、あてのないドライブの魅力の一つだろう。
四月一日の早朝。俺はいつものように、あてのないドライブに行くことにした。
車のエンジンを始動させると、カーナビが起動し挨拶を行ってきた。
〈おはようございます〉
この車にはAIカーナビが搭載されていて、完全対話型である。
俺は滑舌が悪い故に、人と話をしていても「え?」「は?」「何? もう一回言って?」などと聞き返されることが多い。滑舌の悪い俺が悪いのは分かっているが、正直なところ不快である。
だが、このカーナビは音声を拾うマイクとAIが優れているのか俺の声をキチンと拾ってくれる。もう五年の付き合いではあるが、一度たりとも聞き返されたことはない。
スマホやパソコン、友人の最新式のカーナビの完全対話型AIと話をすると、抑揚のない電子音声の棒読みで「もう一度お願いします」と聞き返されることが多いだけに、聞き返すことのないこいつには愛着を覚えている。
だから、更新期間の五年が終わった今でも新しいものを買うことなく付き合い続けているのだ。
オマケに性能も抜群で「雑談」も可能である。俺は根っからの文系でこういった理系のエレクトロニクス的なことはさっぱりでよくわからないが、このカーナビのAIは何千人もの対話モデルを学習し、その場その場で相手の発言に対して適切な回答を可能にしているらしい。
雑談の内容であるが、出身、季節、趣味、健康などと本当に取り留めのないものばかり。
インターネットに繋がっているなら、他機の学習データも共有出来るために時事ネタや天気の話も出来るのだが、生憎とこのカーナビはスタンドアロン式でインターネットに接続することは出来ない。
つまり、本体に入っている対話データ以外の雑談が出来ないのである。
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