ドライブの先

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 あてのないドライブを行っていると、あてなく無心に走っているだけに初見の知らない道を走ることになる。だから、帰り道がわからなくなるのも珍しくはない。 その時はもうカーナビ頼りだ。カーナビの指示(リモートコントロール)に従うだけのロボットに俺は早変わりである。 〈目的地を設定して下さい〉 俺が車に乗る度にカーナビはこう尋ねてくる。いつもであれば、会社や買い物にいくコンビニやスーパーマーケットに設定するのだが、今回はあてのないドライブ故に目的地はない。 だから、俺はあての無いドライブの時には「しなくていいよ。今日は流すだけだから」と言っている。 〈承知しました。良いドライブを。ところで、今日は四月一日ですね〉 「ああ、そうか。エイプリルフールだったな」 〈エイプリルフールとは何でしょうか?〉 対話データの中にエイプリルフールの話題を入れてなかったのか。俺はカーナビに教えてやることにした。 「毎年の四月一日だけ、嘘を()いてもいい日のことだよ」 〈そうですか。私のような機械には関係のないことですね。機械は嘘を()けませんから〉 こいつは性能がいい、言うに事欠いて「嘘を()けない」なんて面白いことを言うじゃないか。制作者の会話パターンの設定のセンスの良さに脱帽である。 「俺も嘘吐く相手がいないから関係ないな。今日はただの平日だよ」  先々週のあてのないドライブは西だった。三月の下旬のまだ冬の寒さが残る時期で、桜もまだ三分咲き。桜並木道も寂しいものである。 四月一日の早朝はポカポカと暖かく、お花見日和。家を出る前に見た天気予報でも桜の満開宣言が成される地域がチラホラと。 ならば、今日は東へと行こう。俺は東に向けて車を走らせるのであった。
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