ドライブの先

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 車の外を景色が流れていく。都会の喧騒を抜けた郊外の道路は見事なまでの桜並木。見た感じは七分咲や八分咲、満開と言ってもいい程に綺麗な桜である。 〈この先、一時停止です〉 一時停止線の前で車を止め、窓を軽く開けてみると温かい春の陽気と共に桜の花びらが車内へと入り込んできた。俺はその心地よさから唐突に花見をしたいと考えてしまった。 「花見でもするか」 〈お酒を飲んだら、運転はやめましょう〉 俺が「花見」と言っただけで、こう反応してくるとは…… 本当に凄い完全対話性能だ。このカーナビは五年前の型落ち品とは思えない程に優れものである。 花見=酒と会話パターンが設定されているのは制作者の趣味だろうか。 「へいへい、飲まないよ」 暫く進むと、公園の案内標識が見えてきた。俺は公園で軽く花見を行うことにした。  駐車場には車が多く止まっていた。車から降りる人を軽く見た感じでは家族連れが多いように見受けられる。 四月一日は大人はともかくとして、子供からすれば春休み。大人も休みを取って家族連れで公園に花見に来ているということだろう。 いい歳して独身の私には眩しすぎる。 何人かの家族連れとすれ違ったのだが、父親は俺と同世代の青年と思しき者が多かった。 いつかは、俺も「そちら側」に行きたいものである。 食事と飲み物は出店していたキッチンカーで購入。桜の下のベンチで食べる食事や飲み物がいつもより美味しく感じるのは何故だろうか? 小学生の時の運動会や遠足にて野外で弁当を食べる度に思っていることだが、今だに答えは分からない。
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