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歯車の始まり
春、入学。笹川美郷は希望に満ち溢れていた。これから先、何があるのだろうかと心を弾ませた。中学からの親友桜子と並んで校舎の門を潜った。
「私は三組かぁ、美郷は?」
「私は……えーと」
クラス別に名前を書かれたリストを上から順に眺める。
「五組だ」
「別々だね。一緒のクラスが良かったのになぁ」
桜子は頬を膨らませたが仕方ない。
「休み時間には桜子のクラスに、えーと、三組だっけ? そっちに行くから」
「分かった。じゃあとりあえず私、クラスに向かうから」
桜子は一人、三組のクラスに向かった。桜子と別れた後、五組のクラスに向かう美郷。教室に入るといろいろな表情が垣間みえる。不安そうな子、楽しそうな子と千差万別だ。席順の表を見て確認する。
「前から三列目の窓際か」
席に着くと前の席で男子が二人で会話をしていた。二人の会話を聞いているとお互い知らない者同士のようだ。これから私もここで親しい人間、つまり友達を作らないといけない。美郷は二人の会話に何となく聞き耳を立てていた。
──バレー部? 弓道部? 部活の話かぁ──
会話中に部活動の話で盛り上がっていて、美郷自身も部活動のことを考えていた。バレー部は無理だな。昔から苦手だった。あんなスピードで飛んで来るボールなんか怖くて触れそうにもない。弓道部か。案外いいかも。的に当たりそうな気はしないけど、でも楽しそうだ。一人勝手に妄想していた。前の席から『新しいことをやるのはいいこと』みたいなことを言ってる男子が少し気になった。
──なんだか格好いいことを言ってるな。私も新しいこと始めたいな──
目を伏せ頬杖をつき、二人の会話を何気に楽しんで聞いていると男が教室に入ってきた。
「ほらほら、静かにして。今から入学式の説明をするから」
入学式の説明前にその男はこのクラスの担任で宮崎と名乗った。美郷は二人の会話が途切れたことがなんとなく残念に思えた。もっと聞いていたかったなと思いつつ、窓から桜の花が咲いているのが見えた。ピンクの花が綺麗だ。ぼんやり説明を聞きながらピンクの花びらが舞うのを見ていた。
宮崎は話し終えると手をパンと叩いて立ち上がるように促した。
「さぁ、今から体育館に移動して」
クラスの皆はそそくさと立ち上がると体育館に足を向けた。美郷も移動の並みに飲み込まれた。その人混みの中、美郷自身気づかぬうちにさっきの席の前の生徒を目で追っていた。
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