1- 始まりの日

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1- 始まりの日

「ほぇっ!?」 暗かった視界が、明るくなったと思ったら、空高くから地面に向かって降下していた。 「ぎゃぁぁぁぁ。」 とりあえず、どうにかならないものかと手足をバタつかせてみた。 すると、フワッとした感覚とともに、体が浮き上がっていく。 「と、飛んでる。」 勇人の体は、大空を舞っていた。 「鳥・・・なのか?願いが届いたのか。」 緑の体毛。緑と黄色の羽根。どう見ても鳥だった。 「ここはどこなんだろう。ヨーロッパのどこかなのかな?」 眼下には森林が広がっていて、少し離れた場所に洋風のお城のような建物があり、その奥には青い海が広がっている。周辺には、いくつかの街や村があるのも見える。 「ひとまず、状況を確認しておこう。そうしよう。」 近くにあった木へと降りていく。 「ここは、四方を海に囲まれた一つの大陸みたいだから、ヨーロッパとかではなさそう。あと、これが今流行りの異世界転生だとしたら、女神が現れて、力を授かり、勇者になるとか。チート能力で無双するとか。スライムが強かったとか。そういう話が多いけど、女神は現れていないし、ただの鳥だな。」 羽根を広げたり、バタつかせたり、その場で飛び跳ねたり、色々と動いてみる。 「鳥になれたのは嬉しいけど、現実問題として、衣食住を考えないとな。鳥のご飯って・・・虫とか?ぐぇっ。住むのも鳥小屋なんてないだろうから、野宿だよな。カラスとか肉食系の動物に襲われたりとか?えー、鳥生活、前途多難。とほほ。」 目を閉じ、どうしたものかと考える。 「やっと見つけました!」 「え?」 勇人は、いきなり現れた人物が手にしていた網に捕まってしまった。 気付くと勇人は、果ての見えない白い床、無造作に置かれている椅子、等間隔に並んだ扉、とても不思議な空間で、人間の姿で立っていた。 「ここは?」 「森川勇人さん。あなたを探してました。」 網を持っている人物は、白いローブを纏った女性だった。 「なんで俺を?」 女性は、コホン、と小さく咳ばらいをする。 「私は、イーネス。女神をしています。勇人さんは、本来は人間として、この世界に転生する予定でしたが、勇人さんの『鳥になりたい』という思いが強く、鳥になってしまったのです。ちゃんとお会いできて良かったです。」 イーネスは、満面の笑みを浮かべた。 「お会いって、いきなり網で捕獲されたんだけど・・・。」 勇人は、小さな声でぼやいた。
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