読書記録『襷がけの二人』

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読書記録『襷がけの二人』

 嶋津輝 作『襷がけの二人』という長編小説を読了。  初めての作家さんでしたが、予備知識なしで読み始めました。  表紙は和装の女性が二人。穏やかな空気が感じられます。  主人公の鈴木千代は平凡な名前のとおりに特徴のない容姿をしていて、唯一、銅鑼声で他者から認識されるらしい。  そんな千代が三村初衣という三味線の師匠の家に女中として住み込むところから物語が進みます。  大正十五年から昭和二十五年の四半世紀。  戦争を挟んだ激動の時代を、対照的な二人が懸命に生きるお話でした。364頁のボリュームがあり、私にはあまり馴染みのない設定でしたが数日で読み終えました。  作中で何度も「のんびりした」と評される千代の性格が、最後には頼もしく見えました。  もっとも共感できたのは、様々な経験を「それだけのことですよ」と話す場面でした。  二人の境遇は違えど、それぞれに悲観する要素はいっぱいあります。でも「それだけのこと」なんです。書きながら泣けてきた。  そんな感涙に浸りながら、ちょっとだけネタバレをします。いやらしくはないのですが、女性の体や花電車芸という話題がでます。一瞬ですが、想像で頭がいっぱいになりました。どんな流れで出るのかは、ここでは我慢します。  タイトルに含まれる『襷がけ』という単語は、表紙の二人に向けられたものです。だけど、私には作中の他の人や、さらに読み手も襷がけをしているように思えました。  襷をかける動作に、気合いをこめる意味を感じるのです。  仕事に限らず、生きることが困難なのは今も昔も変わらない。それらに立ち向かう、そんな気力をだす儀式です。私ならメイクをしたり、制服に着替えるのがそれにあたるのかな。  でも気持ちはこめても、力みはしない。何事も「それだけのこと」だから。  難しいけれど、そんなことを考える朝です。 (2024/5/23(木))
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