しょうせつ、しょうせつ。

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 とはいえ、彼が望む職業は銀行員ではなく作家である。仕事をしながら執筆を続けているとのことだった。大手小説投稿SNSの作家になろうにアリアポリス、スターライツにノベリング、ブルーベリーカフェ、ノベルアンドプライズなどなど。アカウント名は教えて貰えなかったのでWEB上で彼の作品を読んだことはなかったものの、時々公募の最終選考に残ったり、小説コンテストで受賞したりとそれなりに順調に活動していたと聞いている。 「正直、あっちこっちに間口広げすぎて、収集つかなくなっちゃってさ」  彼は苦笑いして言った。 「投稿するサイトを絞っていこうかって思って。それで、とりあえず一部のサイトの作品を、よそに引っ越すことにしたんだ。スターライツに投稿していた作品は、まるごとアリアポリスに転載しようと思って作業続けてたんだよ」 「そりゃまた……手間かかりそうですね」 「まあな。引っ越し作業だけで一週間かかっちまったわ。……で、スターライツには長編中編短編全部含めてニ十作品投稿してて、それらを一つずつコピーして非公開にする作業をしてたんだけど……おかしいんだよ。数えたら、いつの間にか作品数が二十一作品になってる。一つ増えてんの。で、こんな作品投稿した覚えねえぞと思って確認してみたら……」 「今の、おばあさんのホラー小説だったと?」 「そゆこと。十二万文字の長編。確実に俺が書いたもんじゃねえ。でもって悔しいけどめっちゃ面白いんだよこれが。読み始めたら止まらなくなっちまってさ……古き良き怪談小説ってかんじで」 「へえ」  その現象そのものがホラーである。さらに詳しく尋ねていくと、なんと彼はその小説がいつ投稿されたかまったくわからないというのだ。  なんと、公開日時が0000/00/00になっていた。つまりバグっていたのである。  もし彼が引っ越しのために作品の整理をしていなかったら、この小説が投稿されていることにいつまでも気づかなかったかもしれない、と。 「で、最後まで読んだところで気づいたんだ。俺、この話前に人から聞いたことあった気がする、って」  液晶に指を滑らせながら言う先輩。
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