しょうせつ、しょうせつ。

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「お前が入る前……文芸サークルの、俺の二個上の先輩にな。これ読んでみ?って言われて読まされたことがある。で、先輩に“この話どう?”って訊かれて“面白いです”って答えたんだよな。そしたら先輩、そうかそうかーって言ってそのままどっか行っちゃった。先輩が書いたものなのかどうかは聞けなかったんだけど」 「ひょっとして……その先輩も、自分のアカウントに突然その小説が投稿された、とか?」 「かもしれねえ。先輩とは結局卒業後連絡取り合ってないから、そこから先の話は聞けないんだけどさ。で、俺は思ったわけだよ」  にんまり。  高橋先輩は、まるでいたずらっ子の小学生のような笑みを浮かべた。 「ひょっとしたら、これは……幽霊が書いた小説なのかもしれねえ!この主人公のバアさんが、自分の身に起きたことをみんなに教えたくて、小説って形でネット彷徨ってるのかも!」 「ぶふっ」  思わず僕は噴き出してしまった。いや、確かに書いた覚えもない小説がサイトに投稿されてるのはちょっと不気味だし、それが数年前に別の先輩から聞いた小説だというのはミステリーだが。  だからって、なんで幽霊なんて発想になるのか。  そもそも、大正だか昭和だかの幽霊が、インターネットに小説を投稿するというのがあまりにもナンセンスである。 「せ、先輩……じょ、ジョークならもっと面白いものをですね……ぶふふふふ」 「なんだよ長谷川!めっちゃ笑ってるくせになんだよー!」  こいつこいつこいつ、と先輩は僕の額をぐりぐりしてきた。今日が寒い日だったということもあって、先輩の手は随分ひんやりしている。僕はつべたいですー!と笑った。  なんだかこのやり取りも懐かしい。明るくて面倒見の良い高橋先輩には、たくさん面白い本を教えてもらったし、小説の添削もしてもらったものである。学生時代に戻ってきたかのような感覚だ。 「なんか、先輩がなんでこの小説を僕に見せたか察しました。ようは、同じことが僕のアカウントにも起きるのか気になるんでしょ?確かに僕も、作家になろう、に小説投稿してますけど」  僕が言うと、そゆこと!と彼は笑った。 「とりあえず長谷川のメールにさ、全文一話ごとに分けて送るから!良ければ後で、感想聞かせてくれよな!」
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