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横一列に5人まで座れる長机、2列に渡り前後に2人ずつ僕達は座っていた。
さきほどから僕の右隣に座る圭(けい)が頭を抱えて
「あかん、𓏸𓏸に彼氏できる。あかん。あかん。」とうわ言のように呟いている。
前方では白いスクリーンを指出した教授がオセアニアについて語っている。
圭の心配をするほど僕も暇では無いが、なんせ、オセアニアについての授業は欠伸の音が聞こえるほど退屈だ。
触っていたスマホゲームにも飽きると、
「どしたん、へこんでるん?」と肩に手を置く。
「いや、別にへこんでは無いな、好きでもないし、でもさ」
そう言って始まった圭の失恋談は講義が終わってからも続いた。
前にいた2人も加わり話が盛り上がるとそれに比例し教授の声量は減衰していき僕たちの輪から次第にフェードアウトしていった。
とにかく、長らく顔を合わせていなかった友人との会話は90分のくだらない講義を光の速度で終わらせた。
「ほな、おつかれー」
僕達は互いに手を上げるだけ上げ、振ることさえせずにそれぞれの帰路についた。
「おまたせ」
僕は駐輪場で待っていてくれた彼女に手を振り、それからさっきまでしていた会話をもう一度、話すのだった。
彼女を後ろに乗せ、ペダルを漕ぐとゆっくりと自転車は進み出し、桜で覆われた水溜まりを泳いだ。
僕達は大学3年生になった。
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