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と、私にかけられた毛布の上――その膝の辺りで、毛布に突っ伏して寝ている人物がいることに気付く。
ふわふわした長い黒髪に、白磁の様な白い肌。
この、芸術品の様に美しい少年は――。
「兄さん、ずっとついていてくれたのか……」
そう。
彼は、この異世界――現代日本での私の大切な兄である、天魔使 王真だ。
恐らく、私が保健室に運ばれてから、ずっと付き添っていてくれたのだろう。
兄の手は、私の右手をぎゅっと強く握り締めていた。
「心配、してくれたのだな……」
兄の、毛布との隙間から僅かに見える頬に涙の痕を見つけて、とても申し訳ない気持ちになる私。
すると、未だ起きる気配のない兄が、小さく呟く。
「ん………ユージーン……」
(……は……?)
兄の薔薇色の唇が漏らした寝言に、私は思わず固まった。
(今、この兄は……私の前世の名を呼ばなかったか?)
と、兄の唇が再度言葉を紡ぎ出す。
「んぅ〜……ユージーン、今日は、花の広場まで競争だぁ……」
「…………」
花の広場――それは、かつて、私とリスティファがよく遊んでいた場所の名前だ。
(兄さんが、何故それを……?)
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