絆創膏とイワナ

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「さあ、どれにする?」  品書きには魚が多いようだった。少しだけ四つ足の肉もある。文字の横に絵がついている。ここには字が読めない客も来るのだろう。  杜番は風志朗に話しかける。風志朗はわからないだろうに、杜番の指さす先を目で追っている。その様子を見ていると、なぜか体の力が抜けて楽になった。家族が寝ている中、一人目が覚めた早朝の時間に似ている。 「私たちはヤマメにしようか。そこの川で見たことあるだろ、斑点のある魚だよ」  杜番の問いかけに、風志朗は首を傾げている。 「角坊も選びなよ」 「……選ぶ……?」 「好きなのをさ。何が好き?ここの料理は外れないから、そこんとこは心配ないよ」  こういう店に来たことも、食事を選ぶこともないから困った。考えるほどわからなくなった。 「ゆっくり選びな」  この店にあるもので食べられないものもなければ、金が払えないものもない。好きなものをと言われても、好きなものがわからない。 「……イワナ……?」 「いいね。……キヌさん、ヤマメとイワナ、塩焼きで」 「坊ちゃんはひとつで足りるのかい」  そういうやりとりがあって、席にはヤマメ一尾と小盛りの飯、イワナ五尾とどんぶりの飯が運ばれてきた。  風志朗は待ちきれない様子でヤマメの頭に噛り付こうとした。杜番はそれを制して、骨を外して小骨を除いて、少しの飯と一緒に風志朗の口に入れた。風志朗は口に入った瞬間に上を向いてそれを飲み込んだ。喉には詰まらせなかったようだが。 「こらこら、噛んで食べなさい」  杜番は呆れている。 「行儀が悪くてすまないね。まだ鳥の癖が出ちゃうんだよ。気持ちは分かるけど、人の体は勝手が違うからね」  杜番が手本を見せると、今度は落ち着いて食べた。  俺もイワナと対峙する。背がうねって泳いでいるような姿で焼かれている。家で出てくる膳とは雰囲気が違った。皮を剥いで腹を割ると湯気と一緒に香りが上ってきて食欲をそそった。口に入れれば柔らかくてどんどん腹に消えていく。骨はいったん外したが、よく焼けていたからあとから食べた。
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