絆創膏とイワナ

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 君も知ってると思うが、朱越の杜番は代々天狗がしていてね。私にも師匠がいたんだ。  師匠は仙人みたいな人で、山の獣なんかを相手にするのが得意でね。私の他にも一人弟子がいて、そいつは師匠によく似てた。師匠の真似をして獣を追っては捕まえて、勝手に成長しちゃうような子だったよ。でも私はそういうのがあまり得意ではなかった。私は町の生活のほうが好きだったんだ。  そういうわけだから、師匠は私を町に預けた。町で見識を広げて、お前なりに杜番の役目を果たせと言われたよ。キヌさんにもお世話になったよ。ここの二階を借りて住んでたからね。  師匠の言った通り町で暮らしてみて、師匠以外の大人の考え方が少しずつ、私の支えや助けになり、私自身を作っているんだ。だから今は西で楽しくやってるよ。私を町へ出してくれて、師匠には感謝しているんだ。  * 「話が長くなっちゃったな」  杜番は一息ついて、ぜんざいをねだる風志朗の口に匙を突っ込んだ。 「でここからが角坊の話。私にとって師匠だけが師匠じゃなかったように、君もお家や親父さんだけが全てじゃないんじゃないかな?」 「……」 「余計だった?」  俺の親は父上だけなのだから、急にそんなことを言われても困る。 「……わからない……」 「今はいいさ。時期が来れば、要か不要か、君が選ぶことだ」  杜番の視線が苦手だ。ゆったりとこちらの出方を伺うような、それでいてすべて見透かしているような遠い目をするのだ。何をしたら正解なのかわからない。父上のほうがよほど楽だった。その目が、口の周りを餡で汚している風志朗に向けられているので、俺はまだ、この場に座っていることができた。
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