灰色の綿毛

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「奉仕活動、ご苦労」  爺の家を覗くと、杜番がこちらに気づいた。 「……ん」 「お茶が入るよ。飲んでいきな」  もう帰るものだとばかり思っていた。杜番だけでなく、爺とも顔を合わせなければいけないのか。  爺の家の中は物が少なかった。だから床に転がっている、予想しないものがよく目に付いた。 「ふふ、起きたら遊んであげて」  座布団の上で何かが丸くなっていた。杜番がこれの名前を言った気がするが、俺は聞いていなかった。小さい体、柔らかな羽、とろけそうな肌。細い髪。こんな細かいものを見るのは初めてだった。目を閉じているから、眠っているのだろうか。 「どうぞ、坊ちゃん、粗末なところですが掛けてください。薪を割ってもらったようで、なんとまあ、ありがたいことです」  爺が忙しく茶を運んでくると、小さいのが目を覚ました。爺を目で追って手を伸ばすが、爺は気づかないようだ。次に杜番を見つけて、小さなあくびをする。そして視線は隣の俺に移った。瞳は灰色に近い空色。特に温度のない目が、俺をじっと見ている。杜番が手を差し伸べると、小さいのは眠い顔のままその膝に乗った。 「ごめんね。話したいみたいだけど、まだ口が利けないんだ」  小さいのは俺と喋ることなどないだろう。俺も喋ることなどない。 「……おまえの?」 「いや、玄蔵さんちの子だ。六年前だったかなぁ……」  小さいのは爺が拾った迷子のカラスの雛だそうだ。たまたま天狗の才を得てこの姿になっているらしい。いずれは杜番が弟子に取りたいと考えているそうだ。  もう少し早く来ていれば。 「……?」  来ていれば、何なのだ。 「この辺の連中が少しずつ親代わりみたいなもんだよ。角坊も頼むよ、遊んでやってね」 「……」  もうここに来ないつもりだった。また父上を怒らせたら、今度こそ杜番がどうなるかわからなかった。 「私はね、まあ卑しい身の上だけど、これでも結構朱越に貢献してるんだ。君が思うより事情が複雑なんだよ。私がいなくなったら、それはそれで困るわけ。だから君が思うような怖いことにはならない」  俺への慰めや励ましのようには聞こえなかった。杜番はいたって事実であるというように淡々と話した。  言いながら、俺から視線が外れた。爺の家の壁を、遠い目をして見ている。 「お客かな。少し見てくるよ」  父上が来た時も、杜番はこうやって壁を見ていた。不思議な言動だが、天狗は透視ができるから、本当に何かが来たのだろう。杜番は小さいのを膝から下ろして出て行ってしまった。  居間に小さいのと残されて、俺はどうしていいかわからない。爺は飯の支度をしている。小さいのは相変わらず爺を見つめているが、台所までは近寄らないようだ。  小さいのに触ってみたいと思った。でもこの手は父上に向けて刀を振るっていたし、さっきまで斧で木を砕いていた。だからこんな細かいものを触るのは無理だった。これは杜番のか細い背中とか、木こりの衰えた腕とか、そういうものに任せておかねばならない。
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