価値の石

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価値の石

 太刀の重い一撃で地面に押し付けられた。口の中に砂が入った。 「守りは上手くなったが、太刀筋が悪い。斬らねば終わらぬ。精進しろ」 「……は」  起き上がれないから仕方なく地面で返事をした。  今日も父上の剣を避けたり受けたりやり過ごしていた。やはり刀を向けるのは気が重く、形だけ斬りかかる風な動きをしてみた。もちろんそんなものは看過されて、父上は余計に攻勢を強めた。それでも食らいつけないでいると、最後は峰打ちで転がされた。  ようやく立ち上がると、父上が太刀を鞘に納めながら、俺の顔をじっと見ていた。  父上は額に青筋を浮かべ、二本の角は高く伸びて、冷えた金色の目をしている。俺は父上に、よく似ているらしい。 「角、お前は歯がいくつ抜けた」 「……三つ、です」 「そうか。元服のことは分かるか」  俺は首を横に振った。 「鬼の子は、歯が全て抜けて、生え揃ったら大人と見なされる。お前は男だから、最後に牙が生え変わる」  口の中を舐めた。少しだけ列から飛び出した歯がある。父上は口からはみ出そうな大きな牙を持っている。あれが俺にも生えてくるのか。余計に似てしまう。 「そうしたら、お前は一人で族長のもとへ行き元服する。族長がその者の資質を見て相応の石を授ける。そのときにお前の価値が決まる」  そんな話を聞いたのは初めてだった。父上は耳についている透明に光る石を指した。あれが父上の価値なのだろうか。 「……父上の、石は……」  その石をつけている人を父上以外に知らないので、どれほどの価値かは見当がつかなかった。 「金剛石だ。仁崎家は代々、金剛を授かってきた。最高位の石だ」  最高のものを持っているにしては、父上は嬉しそうではなかった。いたって普通であるというように話した。 「お前が金剛に値する鬼になるように、俺はお前を鍛えている。お前もそのつもりで励め」 「……兄上の方が、先に元服します」 「そうだろうな。ただあれは、ろくに剣も振るえないどころか床に伏せっている。期待はしていない」 「……兄上を、差し置くわけには」 「兄に遠慮するようではだめだ。もちろん俺にもだ。斬り捨てるつもりでやれ」 「……そんなこと……」  いかにこの家が居心地が悪くても、身内同士でそんな物騒なことはごめんだ。 「お前は体は強いが心持ちが弱いな。それも元服では見抜かれる」 「……」  隠しているつもりだったが、父上には見抜かれている。 「一度石を付けられたら、格上に戦いを挑む愚か者はまずいない。意味が分かるか。生かすも殺すも好きにできるのは一番上の者だけだ」  そう言って父上は座敷へ戻った。父上が見えなくなってから、俺は地面に膝をついた。とても立っていられる気分ではなかった。
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